「キリストの墓」の発見者、竹内巨麿の半生は謎に包まれている。
 息子の竹内義宮が記した《デハ話ソウ〜竹内巨麿伝》によれば、巨麿は宇多天皇から32代目の子孫と藤波神宮の神主の娘との間に生まれた私生児ということになっている。幼少の頃、母を暴漢に殺された巨麿は、その仇討のために武者修行に出掛け、修行先の鞍馬山で神代文字と神代史を学んだ。
 しかし、官憲の調べでは、事実はまるで違う。巨麿は天皇家とはまるで関係のない木挽き職と寡婦との間に生まれた私生児で、単身上京後、御獄教に入信。布教師となり全国各地を行脚して、この間に新興宗教のノウハウを知り、やがて天津(あまつ)教を創設、皇祖皇太神宮の神主におさまる。
 なんのことはない。単なる新興宗教の教祖様だったのである。
 この点、GHQの宗教政策を担当していた東洋史学者ウィリアム・K・ヴァンスの竹内に関する報告が面白い。

「この宗教は起源の不確かな古文書を抱えているが、教義が信教の自由の枠内に入るかどうかは疑問である。教祖の竹内巨麿はやや精神分裂症的、誇大妄想気味の人物で、天皇家の祖先とされる天照大神の前に29代の天皇がいたと主張している」。


 ヴァンスが「誇大妄想気味」と評したのはもっともで、この天津教、その奇妙キテレツな教義で他の新興宗教とは一線を画している。そのキテレツは、佐治芳彦著《謎の竹内文書〜日本は世界の支配者だった!》の目次を開けば一目瞭然であろう。

「神々の故郷はプレアデス星団」。
「飛騨の立山に降下した円盤」。
「何度もおこったノアの洪水」。
「核戦争に敗けた天照大神」。
「エスパー天皇とミュータント天皇」。
「桃太郎は地球の警邏隊長!?」。
「竹内文書にも載っているムーとアトランティスの沈没」。
「アダム=イブは兄妹だ」。
「釈迦も孔子も日本で修行した」。
「日本にもあったピラミッド」。

 等々、オカルト雑誌《ムー》でお馴染みの話題が盛り沢山。少々詰め込み過ぎの感は否めない。
 要するに、竹内の作り出した教義は、当時流行した「日本神国論」を最も極端な形で展開したものであった。その主な特徴は以下の3つ。
 まず、天皇は宇宙からやってきて地球に君臨した。
 次に、モーゼ、マホメット、釈迦、孔子、キリスト等、世界の偉人たちはみな日本で修行し、超能力を会得した。
 そして、世界中の文明はすべて天皇が齎したものであり、その原形は(ピラミッドも)すべて日本にある。
 なんとグロテスクな世界観であろうか。