以上のような歴史を引きずっているわけだから、ゾンビ化の儀式は本来は「悪事に対する懲らしめ」であった。いわば「必殺仕事人」のようなものである。事実、前述のナルシッスは、土地を巡る争いではなく、悪事の代償としてゾンビにされたらしい。彼はいわゆる女ったらしで、いたるところに私生児を作り、しかもその養育の一切を拒んでいた。
ところが、最近では「私欲」のためにゾンビ化が為されることが増えてきた。冒頭のフランシーヌの場合がその典型である。彼女は婚礼の晩に毒を飲まされ、花嫁衣装のまま埋葬されたが、それは婚約者が彼女の持参金着服を企てたために引き起こされた悲劇であった。
とまあ、これまで「ゾンビ事例」がさも事実であるかのように書いてきたが、ウェード・ディヴィスの説も事実だと証明されたわけではない。追試した研究者によれば、「ゾンビ」を検査したところ、まったくの別人だったりとか、単なる精薄だったりとかしたらしい。
とにかく、ハイチというところはかなりアバウトなお国柄らしく、町をウロつく精薄が死んだ親族に似ていると「生き返った」とか云って、勝手に連れて来ちゃうのだそうだ。
「ゾンビ事例」も結局「なんでもなかった」ってことなのかも知れないが、私はディヴィスの調書が真実であると信じたい。その方が、夢があって面白い。
【参考資料】
*《世界不思議百科》ワールドフォトプレス編(光文社)
*《世界不思議百科・総集編》コリン・ウィルソン(青土社)
*《新トンデモ超常現象56の真相》(太田出版)
*《さばおり劇場2》いがらしみきお(講談社)
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