市太郎には、もう一つの思惑があった。女給をしている妹のとみが妊娠していたのだ。父なし子を産むのは世間体が悪い。千葉を父親に仕立て上げれば、近所の口も封じられよう。 |
屍体の始末に困った兄弟たちは、相談の上、バラバラにすることにした。手足は長太郎が勤める東大の天井裏に隠し、残りはとりあえず床下に埋めた。ところが、一ケ月ほどして長太郎がちょっとしたことから警察の御世話になる。家宅捜索でもやられた日にゃ大変だ。慌てた市太郎ととみは、胴体と頭をハトロン紙に包むと自転車で一路、玉ノ井へ。その帰りにとみは、玉ノ井の居酒屋に住み込み奉公の交渉をしている。 以上からも判る通り、有名な「玉ノ井バラバラ事件」において玉ノ井は、屍体の棄て場を貸しただけだったのである。そのとばっちりで発狂した者がいるのだから、甚だ迷惑なはなしだ。(本章は部分的にフィクションであることを、ここにお断わりしておく)。(了) |