デヴィッド&キャサリン・バーニー
David & Catherine Birnie (オーストラリア)



デヴィッド&キャサリン・バーニー

 世の中には理解できない事件が数多くあるが、このバーニー夫妻の事件ほど理解に苦しむ事件も珍しい。

 1986年11月10日の昼下がり、オーストラリア南西部の港湾都市フリマントルでの出来事である。スーパーマーケットにいきなり半裸の少女が駆け込んで「強姦された」と涙ながらに訴えた。彼女が監禁されていたと云う家にはデヴィッド・バーニーとその妻のキャサリンが住んでいた。事情聴取された2人は、抵抗するどころかあっさりと容疑を認め、やがて4件の強姦殺人を自供した。その日の夕方には、犠牲者を埋めた場所に捜査官を案内したというから、呆れるほどのスピード解決である。
 捜査を進めるうちに捜査官は、この事件が通常の強姦事件とは全く異質であることに気づいた。妻のキャサリンは夫の強姦に積極的に協力していたのである。

 デヴィッドとキャサリンは十代の頃からの恋人同士だった。しかし、2人で侵入窃盗を働き、逮捕されて離ればなれになった。出所後、それぞれが別々に結婚し、キャサリンは5人の子供をもうけたが、やがてデヴィッドと運命の再会。キャサリンは子供を捨てて、既に離婚していたデヴィッドのもとに走ったのである。
 デヴィッドは小柄で貧弱な男だったが、異常に性欲が強く、1日に少なくとも6回は射精しないと治まらなかった。その矛先は弟にも向けられたというから呆れてしまう。尻を貸した弟も弟だが、とにかく穴さえあれば何でもいいのだろう。
 こんな男の性欲をキャサリン1人で満たすことは至難のワザだ。彼女が夫の強姦に積極的に協力したのは、夫婦生活を保つための手段だったのである。しかし、それは唯一の手段ではなかったし、そもそも人の道を踏み外している。

 最初の犠牲者はメアリー・ニールソンという22歳の学生だった。デヴィッドが広告に出していた中古のスペア・タイヤを買うために彼らの家を訪れたのである。デヴィッドは彼女と応対するうちに次第に欲望を抑えきれなくなり、ナイフで脅して強姦した。キャサリンはそれを止めるでなく、淡々と眺めていたという。
 このままメアリーを解放したのでは、2人はまたムショ送り。離ればなれになってしまう。そこでグレン・イーグルの森の中に連れて行き、再び強姦した後、絞殺した。そして、手足を切断し、地中に埋めたのである。1986年10月6日のことである。

 2週間後、15歳のヒッチハイカー、スザンナ・キャンディがバーニー夫妻の車を停めた。デヴィッドは彼女をいたく気に入って、何度も何度も繰り返し何度も何度も何度も何度も強姦した。彼女を絞殺したのはキャサリンである。動機はもちろん「嫉妬」だった。

 夫婦は次第に大胆になっていった。次の犠牲者となる31歳のスチュワーデス、ノエリーン・パターソンは彼らとは顔見知りだった。彼女がガス欠で立ち往生している時に通りかかったのが夫妻だったのだから不運である。デヴィッドは彼女をいたく気に入って、何度も何度も何度も何度も3日に渡って強姦した。キャサリンはまたもや嫉妬して、早く殺すべきだとデヴィッドを焚きつけた。仕方がないのでデヴィッドは、もったいないけど絞殺した。
 ノエリーンを埋めた場所に警察を案内したバーニーは、そこに唾を吐き捨てたという。よっぽど悔しかったのだろう。

 4人目の犠牲者は、21歳のコンピューター・オペレーター、ダニーズ・ブラウンである。デヴィッドは2日に渡って強姦し、森の中に連れて行き、そこで再び強姦した。その最中にデヴィッドはくだものナイフで2回刺したが、彼女は死ななかった。そこで傍らで見ていたキャサリンは大型のナイフを手渡した。デヴィッドはそれで彼女の首を突き刺した。

 バーニー夫婦は法廷でもすべてを認めて、共に終身刑を宣告された。彼らは2007年には仮釈放の申請資格を得るが、裁判長はこのように付言した。
「彼らは永久に刑務所から釈放されるべきではない」
 夫の性欲を満たすために強姦に加担し、それを傍らで見守りながらも嫉妬の炎を滾らせる妻。極めて異常な愛の物語である。

註:デヴィッド・バーニーは2005年10月7日、独房で首を吊って自殺している。54歳だった。


参考文献

『連続殺人紳士録』ブライアン・レーン&ウィルフレッド・グレッグ著(中央アート出版社)
週刊マーダー・ケースブック38『狂気の殺人カップル』(ディアゴスティーニ)
『SERIAL KILLERS』JOYCE ROBINS & PETER ARNOLD(CHANCELLOR PRESS)


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