スチュアート・ゴールドスタイン
Stuart Goldstein (アメリカ)


 

 コリン・ウィルソン著『現代殺人百科』には、大金持ちのボンボンによるこんな身勝手な殺人事件が紹介されている。

 1970年10月20日、ラスベガスのシーザース・パレスでソムリエをしていたアリス・ディーター(31)が行方不明になった。同僚によれば、前日の深夜1時頃、仕事を終えた彼女が大型セダンに乗り込むのを見たのが最後だという。間もなく、砂漠の道路脇にナンバープレートを外されたキャデラックのセダンが乗り捨てられているのが発見された。ドアには弾痕が、助手席には血痕がある。事件に巻き込まれた可能性が高い。調査の結果、このキャデラックはレンタカーであることが判明した。借り主の名はスチュアート・ゴールドスタイン。新婚の妻と共にシーザース・パレスに投宿し、アリスが行方不明になったその日にチェックアウトしている。しかも、その日に夫妻は再びキャデラックを借りていた。

 その足取りを洗うと、夫妻はラスベガスに来る前にワイオミング州コーディの牧場に2週間ほど滞在していることが判明した。どうやらこの牧場を買い取る交渉をしていたようだ。その目的が不謹慎で、ここをスワッピング・マニアの社交場にして、シカゴの金持ち連中を呼び寄せて商売することを考えていたらしい。ゴールドスタインはオーナーに「今は手持ちの資金はないが、近い将来に都合がつく」と説明している。また、彼はコーディに滞在している間に拳銃を購入していた。

 1ケ月後、ゴールドスタインの現在の足取りがようやく掴めた。取り調べに応じた彼はアリス・ディーターの殺害を認めた。その動機はトンデモないものだった。
 彼は牧場の買収資金の捻出に苦慮していた。堅物の父親がスワッピングの金を出してくれる筈がない。そこで、カリフォルニアにいる叔父さんに眼をつけた。叔父さんが死ねば僕にもかなりの遺産が入る筈だ。よし。もうこれしかない。叔父さんを殺そう。でも、僕に人が殺せるかなあ。不安だなあ。自信が持てなかった彼は、まず予行演習のために人を殺してみることにした。
 アリス・ディーターと親しくなった彼は、仕事が終わったら夜のラスベガスの観光案内をしてくれないかと彼女を誘った。普段の彼女はそんな話には乗らないが、男の妻も同席していたので誘いに乗った。1時間ほど観光して、妻を部屋に戻し、ゴールドステインは一人でアリスを家まで送った。その途中でズドン。20km離れた砂漠に遺体を遺棄し、衣服を剥ぎ取り、性犯罪に見せかけた…。

 どうしようもない男である。法廷では、自白は権利の通告がなかったから証拠には出来ないだの、責任無能力だのとさんざん足掻いた挙句、有罪となり終身刑を宣告された。


参考文献

『現代殺人百科』コリン・ウィルソン著(青土社)


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