パトリック・マッケイ
マッケイが殺人に使用していた凶器
シャブが切れればこのありさま
「さあ、どんどんしまっちゃうからね」
パトリック・マッケイは殺人を犯す前から「冷血な精神異常の殺人者」とのレッテルを貼られたナチュラル・ボーン・キラーである。
父親の彼に対する虐待は胎児の頃から始まった。身重の妻の腹を思いっきり蹴り飛ばしたのである。その後のことを思えば、その時に流産してしまえばよかったのだが、不幸にも生を与えられた。 そして、１０歳の時に父親が死亡すると、まるでバトンタッチしたかのように凶暴になり始めた。
まずは学校での弱い者いじめと動物虐待から始まった。猫や兎を蹴り殺し、亀を生きたまま火あぶりにした。やがて窃盗の常習犯となり、カトリック教会に放火したこともあった。
１３歳の時に家で暴れて母親や妹に殴りかかり、精神病院に入れられた。１５歳の時には母親や近所の少年を絞殺しようとした。再び精神病院に入れられて、下された診断が「冷血な精神異常の殺人者」。担当医たちは退院に反対したが、その願いは聞き入れられなかった。
シャバに戻ったマッケイは覚醒剤を始めた。冷やし中華のように、
「覚醒剤始めました」
と教えて欲しいものだ。やがてヒトラーに心酔し、部屋中をナチスの写真で埋めつくし、自分で作ったへなちょこの軍服を着て、自らを「フランクリン・ボルヴォルト１世」と名乗るようになった。どうしてそう名乗るのかはさっぱり判らなかったが、曰く「ヒトラーのように恐れられ、覚えやすい名前」なのだそうだ。世界は変革を必要とし、己れがそのリーダーになると信じていた。しかし、やっていることは相変わらずこそ泥と弱い者いじめばかりだった。
やがて成人したマッケイは１９７３年７月から７５年３月にかけて１１人を殺害したと見られている。いずれも子供か老人の弱者ばかりである。
ハイジ・ニルク（１７・列車からの突き落とし）
メアリー・ハインズ（７３・撲殺）
ステファニー・ブリットン（７４・刺殺）
クリストファー・マーティン（４・ブリットン夫人の孫・刺殺）
身元不明の浮浪者（橋からの突き落とし）
イザベラ・グリフィス（８４・絞殺）
フランク・グッドマン（６２・撲殺）
セアラ・ロッドウェル（９２・撲殺）
アイビー・デイヴィス（５４・斧による斬殺）
アーデル・プライス（８９・絞殺）
アンソニー・クイーン神父（６１・斧による斬殺）
クイーン神父はマッケイを何度も庇ってくれたことのある恩人である。にも拘わらず、彼は恩を仇で返したのである。立ち所に天誅が下り、２日後に逮捕された。神父とマッケイの因縁を知る者に通報されたのである。
５件の殺人で起訴されたマッケイは、３件で有罪となり、終身刑を宣告された。
マッケイの犯行は連続殺人犯には珍しく性的な動機づけが見られない。強姦事件は一つも起こしていない。それはおそらく、女を覚える前に覚醒剤を覚えたからだろう。だから覚醒剤を手に入れるために強盗を繰り返したのだ。フランクリン・ボルヴォルト１世は、ひょっとしたら童貞だったのかも知れない。