マグダレーナ・ソリス
Magdalena Solis (メキシコ)


 

 マグダレーナ・ソリスの元の職業は売春婦である。それがひょんなことから生き神となり、遂には大量殺人を指揮することとなった。今回は登場人物が多いので、整理しながら順繰りと話を進める。舞台は1963年初頭のメキシコである。

 事の発端はサントス・エルナンデスカイエタノの兄弟である。このチンピラ兄弟はジェアバ・ブエナというモンテレー郊外の村落でインチキ宗教を始めた。信仰の対象は古代インカの神々で、金とからだを提供すれば恩恵が齎されるという極めてシンプルな教義だ。弟のカイエタノはゲイだったので、信者たちは男女共にその身を捧げた。当初は儲かるわヤリ放題だわでウハウハだったが、次第に信者たちの不満が募り始めた。そりゃそうだろう。貢ぎっぱなしヤラれっぱなしで、恩恵は一向に齎されなかったからだ。

 こりゃアカンと兄弟は思案し、生き神様を降臨させることにした。そこで抜擢されたのが売春婦のマグダレーナ・ソリスと、その兄貴でポン引きのエリーザである。洞窟での儀式でパチパチパチと火薬を焚き、スモークの中からモクモクモクと信者の前に現れた。信者の1人がエリーザを指差して叫んだ。
「アッシジの聖フランチェスコだ!」
 あのお、あんたたちが信仰してるのは古代インカの神なんですけどお。それでも誰も否定しなかったので、エリーザは聖フランチェスコということになってしまった。美貌の兄妹が取り仕切る儀式(でも適当)に信者たちは感激しきりで、彼らの信仰心は以前にも増して行ったのである。

 マグダレーナとエリーザは共に同性愛者だったので、信者のからだの配分はうまく行き、4人の関係は良好だった。たまにサントスとマグダレーナが美貌の娘を巡って争うぐらいである。しかし、恩恵が齎されない状況は一向に変わらず、信者の不満が再び募り始める。そこでマグダレーナは信者たちにこのように告げる。
「村びとの中に信心なき者がいる。神々はこのことを嘆いておられる。この者どもを生贄として捧げれば、必ず恩恵は齎される」
 合計8人の不信心者が惨殺され、その血はニワトリの血と混ぜ合わされて回し飲みされた。恐れをなした村びとたちは近所の村へと逃げ始めた。

 この件に前後して、マグダレーナの恋人セリーナ・サルバーナが浮気した。彼女は同性愛者ではなかったので男に抱かれたかったのだ。このことを知ったマグダレーナは烈火の如く怒り狂った。
「神々はセリーナを所望しておられる。彼女を生贄として捧げよ」
 1963年5月28日、セリーナは十字架に縛りつけられ、信者たちに殴る蹴るされた挙句に、魔女のように焼き払われた。高揚してワケが判らなくなったマグダレーナは、
「今度はあいつをヤッチマイナー」
 えっ? おれ?
 名前が判らぬこの農夫はその場で斧で叩き殺され、心臓を抉り出されたというからエゲツない。この一部始終を目撃していたセバスチャン・ゲレーロ(14)は隣村まで走って警察署に駆け込んだ。
「かくかくしかじか! かくかくしかじか!」
 にわかには信じられない話である。ルイス・マルティネスという巡査が彼と共に車で真偽を確かめに向った。ところが、それっきり帰って来ない。後日、2人の惨殺死体が村で発見された。

 洞窟での銃撃戦の果てにサントスが射殺されて、恐るべきセックス教団は終焉を迎えた。カイエタノは行方知れずだったが、後に信者の一人に殺されていたことが発覚した。
 マグダレーナとエリーザのソリス兄妹は、その他の12人の信者と共に裁かれて、共に30年の懲役刑に処された。事件の凶悪さからすれば軽いようにも思える。


参考文献

『連続殺人紳士録』ブライアン・レーン&ウィルフレッド・グレッグ著(中央アート出版社)
『現代殺人百科』コリン・ウィルソン著(青土社)
『世界犯罪クロニクル』マーティン・ファイドー著(ワールドフォトプレス)


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