ウィリアム・ヨハンセン
William Johansen (アメリカ)



『世界犯罪クロニクル』

『世界犯罪クロニクル』という本がある。世界各地の犯罪を1800年から1993年まで年代順に、あたかも新聞記事のように並べるという面白い試みが為されている。踊る見出しも扇情的だ。

「女中が女主人を殺して茹でてその脂肪を油汁として販売」
「ジョージアの黒人たちの豪華な宴会で人肉の料理が出される」
「シカゴの屠殺業者が妻をソーセージに加工」
「ニューヨーク港での死体のジグゾーパズル」
「女たらしの男が独身女性の財産でらんちき騒ぎを送る」
「切られた首が燃え盛る炎の中で目を見開いた」
「怪物は自分の血が噴き出る音を聞きたいと切望」

 いずれも当館で紹介済みの事件である。どれがどれであるか、諸君はお判りだろうか?
 今日も1940年のページを開いたら、こんな凄い見出しが眼に飛び込んで来た。

「死体のせいで霊安室の従業員が気の狂った殺人者に変貌」

 面白そうな事件である。ところが、いくら調べても「ウィリアム・ヨハンセン」なる人物に関する資料は他に見当たらない。故に『世界犯罪クロニクル』の少ない記述のみを頼りとする。御了承願いたい。


 ニューヨークのマウント・シナイ病院の霊安室で働いていたウィリアム・ヨハンセンは、そのために精神を患ってしまったようだ。寝ても覚めても考えることは死体のことばかり。次第に誰かを殺さなければならないと思い込むようになった。

 1933年10月、との口論の結果、骨切り包丁で彼女を殺してしまったヨハンセンは、ブルックリンに逃亡、ハリー・ゴードンと名を変えて、リディアという女と結婚した。やがてカリフォルニアのロングビーチに移住、そこでリディアは花屋を開いた。

 商船の水夫を職を得たヨハンセンは港に留まることが多かった。1935年4月、彼はサンフランシスコでベティ・コフィンという名の娼婦を拾うと、湾岸のホテルに「H・マイヤーズ夫妻」として投宿した。翌朝、殴られ、首を絞められ、カミソリで滅多切りにされたベティの遺体がホテルの部屋で発見された。

 時は流れて1940年4月、サンフランシスコの4番街にあるホテルで、娼婦のアイリーン・マッカーシーの全裸死体が発見された。カミソリで滅多切りにされ、ベルトで絞殺されていた。
 やがて逮捕されたヨハンセンは、以上の3件を自供した。


 記述はここまでである。彼がどうして逮捕されたのか。その後、どのように処遇されたのかの記述はない。
 事件をざっと眺めると、ネヴィル・ヒースの事件に似ていることが判る。典型的なサディストによる犯行であり、「死体のせいで気が狂った」とは口からの出まかせだろう。しかし「死体のせいで気が狂った」方が話としては面白いわけで、こういうのに飛びついてしまうのは我々の悪いクセだ。

(2007年11月26日/岸田裁月) 


参考文献

『世界犯罪クロニクル』マーティン・ファイドー著(ワールドフォトプレス)


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