ジョージ・ブレイン
George Brain (イギリス)



犠牲者のローズ・アトキンス

 1938年7月14日早朝、ロンドン南西部ウィンブルドンの路上で女性の遺体が発見された。当初は轢き逃げかと思われたが、どうやらそうではないらしい。彼女は頭を殴られ、胸を刃物で刺された上に、車で轢かれていたのだ。随分と念入りな殺し方である。
 女性の身元はすぐに割れた。本名ローズ・アトキンス、地元では「アイリッシュ・ローズ」の源氏名で通っている30歳の娼婦だった。
 彼女の脚にはタイヤ痕が残されていた。彼女を轢いたのは「モーリス・マイナー」か「オースティン・セブン」かのどちらかに間違いない。いずれも小型のバンである。

 2日後、靴卸売会社の経営者が警察に「うちの社員が32ポンド盗んでドロンした」と届け出た。その社員、27歳のジョージ・ブレインが仕事で乗り回していたのが「モーリス・マイナー」だった。彼は「モーリス・マイナー」を会社のガレージに戻した後に失踪したのだ。
 警察にはピンと来るものがあった。早速そのバンを調べると、座席にはブレインの指紋がついたローズのハンドバッグが置かれていた。
 あほやなあ。名前はブレインなのに。

 やがてシアネスで逮捕されたブレインは、このように弁明した。

「あの日は夜遅くまで会社の車を乗り回していました。すると街角に好みの女が立っているのを見つけました。私は声をかけました。やあ、乗らないかい。すると、女は私を脅迫してきたのです。あら、会社名の入った車で遊び回ってていいのかしら? いくらかくれなきゃ、あなたの上司にチクるわよ。カッとなった私は…私は…その後のことはあまり憶えていません。気がついたら、彼女を殺していました」

 にわかには信じられない話である。それだけのことでここまで執拗に暴力を振るうだろうか? 何しろ彼女は殴られて、刺された上に轢かれているのだ。殴るだけでよかろうと思う。
 別の動機があるのではないか? もっと恥ずかしい動機が。
 彼女のハンドバッグから4シリングを奪っていることも解せない。

 とにかく、本人がそれ以上語らないのだがら真相は判らぬままである。わずか15分の協議で有罪を宣告されたブレインは、同年11月1日に絞首刑に処された。

(2007年10月31日/岸田裁月) 


参考文献

『世界犯罪クロニクル』マーティン・ファイドー著(ワールドフォトプレス)


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