ジェイムス・アール・レイ
James Earl Ray (アメリカ)



暗殺直後の写真



ジェイムス・アール・レイの手配書

 マーティン・ルーサー・キング・ジュニア、いわゆるキング牧師の暗殺についてもまた、ジョン・F・ケネディの場合と同様、陰謀論が有力に主張されている。暗殺者とされるジェイムス・アール・レイの単独犯とは到底思えないからだ。

 レイはちんけなコソ泥だ。犯行はいずれも間抜けそのもの。いつもドジってパクられている。人生の3分の1をムショで送ったこの男は、政治事件とは無縁である。自身もこのように語っている。
「塀の中では脱走することしか考えていなかった」
 そして、現実に脱走して、逃亡中に暗殺事件を起したのだが、果たしてそのような身の上の男が政治事件を起すだろうか? そんな余裕はない筈だ。彼が暗殺者だとしても、誰かに金で雇われたと見るべきだろう。
 この点、レイ自身は「ラウール」と名乗る男にハメられたと主張して、暗殺への関与自体を否定している。

 レイの主張を裏づけるのが、現場付近にそっくり残されていた証拠の数々である。白人の男が戸口に落として行ったというその包みには、凶器とされるライフルはもちろん、双眼鏡やら地図やらラジオやら、暗殺に用いたと思われる一式が入っていたのだ。いずれにもレイの指紋しか残されていない。おまけにラジオには彼の囚人番号が貼ったままだ。いくら彼が間抜けだからといって、ここまで間抜けとは思えない。これでは俺が殺ったと世間に公言しているようなものである。

 下院の特別委員会も1979年1月にこのような声明を発表している。
「当委員会は、例えば人種問題のような他の動機の可能性は否定しないが、その中心的な動機は金目当てであったと結論するに至った」
 つまり、雇い主の存在を肯定したのだ。

 では、誰が彼を雇ったのか? CIAやらFBIやらKKKやら、陰謀論にお馴染みのアルファベットが並ぶことになるのだが、ここから先は闇の中だ。深入りはすまい。
 1993年の刑務所内でのインタビューで、レイはこのように語っている。
「こうした陰謀論を扱った本には関係者が五万と登場する。だが、そんなに大勢いるとは思えない。関わったのはせいぜい4、5人だ。キングの場合だと、俺とラウール、そして、その仲介役を含めた5人くらいだ。そのうち1人か2人はスパイだ。そんなところだろう」

 なお、ジェイムス・アール・レイは1998年4月23日、獄中で腎臓病により死亡した。70歳だった。暗殺直後に殺されたオズワルドよりはマシな人生だったのかも知れない。

(2008年12月14日/岸田裁月) 


参考文献

『現代殺人百科』コリン・ウィルソン著(青土社)
『暗殺者』タイムライフ編(同朋舎出版)
『世界犯罪クロニクル』マーティン・ファイドー著(ワールドフォトプレス)


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