メアリー・エリザベス・ウィルソン
Mary Elizabeth Wilson (イギリス)



メアリー・エリザベス・ウィルソン

 それまでは地味に暮らしていたおばちゃんが、或る日突然、凶悪な殺人者としてデビューする事例がしばしば見受けられる。この現象はいったい何なのだろうか? 平凡な人生に飽き飽きして、最後にひと花咲かせたかったとでもいうのだろうか? まあ、たしかに、おそらく歴史に残らなかったであろうその名前が、こうして錚々たるメンバー(ブランヴィリエ侯爵夫人とかリディア・シャーマンとかメアリー・アン・コットンとか)と並ぶのだから、ひと花咲かせたことは間違いない。してみれば殺人者になることは、現代におけるシンデレラ・ストーリーなのかも知れない。

 メアリー・エリザベス・ウィルソンの生涯も1955年までは平凡そのものだった。イングランド北部の労働者階級の家庭に生まれた彼女は、14歳の時にノウルズ家の女中となり、やがて末っ子のジョン・ノウルズと結婚する。1914年のことである。その後の40年は退屈の一語に尽きる。夫のジョンは出世するでもなく、波風を立てるでもなく、平々凡々な日々を送る。同じことの繰り返し。それが40年も続くのだ。私に云わせれば、ちょっとした生き地獄である。

 そんな退屈な日々も、ジョン・ラッセルという下宿人を迎えたことで一変する。メアリーはこの煙突掃除夫の中年男とデキてしまうのだ。数ケ月後の1955年7月某日、体調を崩した夫のジョンはみるみるうちに衰えて、わずか2週間でポックリと逝ってしまう。年齢が年齢だけに疑惑を抱く者は一人もいなかった。
 その年のクリスマスには、新たに夫に納まったジョン・ラッセルも胃痛を訴え、年明け早々に逝ってしまう。
「早ッ!」
 と誰もが思ったが、やはりこの時点で未亡人を疑う者はいなかった。ちなみに、メアリーはジョン・ラッセルの死により、その所持金46ポンドぽっちを手にしている。その少なさも彼女が疑われなかった理由である。

 喪が明けるや否や、メアリーは新たな下宿人を迎え入れる。オリヴァー・レナードは76歳の元不動産業者。小金を貯め込んでいると思うじゃないか。ところがどっこい、結婚してみて驚いた。ほとんど無一文なのである。
 あじゃぱあ。
 じいさんはみるみるうちに衰えて、婚礼の日からわずか2週間で逝ってしまう。1956年9月某日のことである。メアリーが手にしたのは、またしても50ポンドぽっちだった。

 1年後、懲りないメアリーはアーネスト・ウィルソンと結婚していた。この75歳の元エンジニアもわずか2週間で逝ってしまう。このたび彼女が手にしたのは100ポンド。倍増したとはいえ、この手の犯罪にしては少なすぎる。連続殺人のバーゲンセールを見ているようである。

 さて、この頃になるとさすがにご近所さんも疑い始めた。彼女にまつわるブラックジョークが出回るようになる。例えば、葬儀屋に、
「お得意さんなんだから、卸値にしてくれてもいいんじゃないの?」
 などと云ったとか云わないとか。結婚式でケーキが余ると、
「残りはお葬式のために取っておいてね」
 などと云ったとか云わないとか。もちろん警察も捜査を始める。そして、前の2人は腐敗が酷くておはなしにならなかったものの、後の2人からは亜リン酸が検出されて、メアリーは逮捕されたのである。

 かくして2件の殺人で有罪となったメアリーは死刑を宣告されたが、高齢であることが考慮されて終身刑に減刑された。そして、4年後の1961年に獄中で死亡。享年70。晩年になってバタバタッと忙しくなった人生だった。

(2008年8月27日/岸田裁月) 


参考文献

『連続殺人紳士録』ブライアン・レーン&ウィルフレッド・グレッグ著(中央アート出版社)
『LADY KILLERS』JOYCE ROBINS(CHANCELLOR PRESS)


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