ローレンス・ビッテイカー
ロイ・ノリス

Lawrence Bittaker & Roy Norris
a.k.a. The Toolbox Killer (アメリカ)



ローレンス・ビッテイカー


ロイ・ノリス


マーダー・マック

 犯罪大国アメリカの実態を捉えたドキュメンタリー映画『アメリカン・バイオレンス』(1981)には、ローレンス・ビッテイカーが裁かれている法廷から吐き気を堪えて退廷する傍聴人たちの生々しい映像が収録されている。彼は少女たちを殺害する過程を録音しており、それが法廷で流されたのだ。この映像は当時十代の私にはかなり衝撃的だった。そして、こんな鬼畜が現存することに少なからず驚きを覚えたものである。

 ビッテイカーは一言で云えば火野正平タイプの男である。背は小柄で愛嬌がある。母性本能をくすぐるタイプだ。幼い頃に養子に出された彼のIQは138もあったという。しかし、それを生かすことなく自動車泥棒で逮捕されたのが19歳の時だ。以後、シャバとムショを何度も行き来していた。

 最後の服役でロイ・ノリスと出会ったことがビッテイカーの転機となった。強姦の常習犯たるノリスはビッテイカーにその具合の良さを滔々と語ったことだろう。意気投合した2人は釈放後に共同でバンを買ってガールハントに繰り出したのである。ちなみに、彼らはそのバンを「マーダー・マック」と名付けていたという。当初から殺す気満々だったのだ。

 判明している最初の犠牲者は16歳のシンディ・シェイファーだった。1979年6月24日、ロスのレドンド・ビーチ付近で彼女を車に引きずり込んだ2人は、口をテープで塞ぎ、手足を縛り上げた。そして、山中まで車を飛ばして、繰り返し犯した後、針金のハンガーで首を締めて殺害したのである。締める際にはペンチを用いたという。徐々に締め上げることで殺しを長引かせていたことが窺える。彼らは明らかに殺しを楽しんでいる。真性のサディストだ。そして、遺体をシャワー・カーテンに包み、峡谷に遺棄した。これだけのものを用意していたのだから、極めて計画的な犯行だ。

 次の犠牲者、アンドレア・ホール(18)の場合は、彼女にも非があると云わざるを得ない。ビッテイカーの誘いに応じて自ら車に乗り込んでしまったのだ。2週間後の7月8日のことである。ビッテイカーは彼女に微笑みながら話しかけた。
「後ろにクーラーが積んであるんだ。何か飲み物を取って来てくれないか」
 彼女が後ろに乗り込むや否や、隠れていたノリスが飛びかかった。その後は前回と同じである。但し、このたびは殺害方法が異なる。アイスピックを耳に突き立てることで殺害したのだ。いやはやなんとも、酷い殺し方である。
 ノリスによれば、突き立てたのはビッテイカーだという。ノリスがビールを取りに行っている間に突き立てたのだ。だとすれば、ノリスは殺しには余り興味がないのだろう。むしろビッテイカーの方が味をしめていたようだ。

 9月3日には2人の少女が同時に襲われた。ジャッキー・ギリアム(15)とリー・ランプ(13)である。彼女たちもまたビッテイカーの誘いに応じて自ら車に乗り込んでしまった。2日に渡って犯された挙げ句、件のハンガーで拷問された後に殺害されたのである。ジャッキーはアイスピックで、リーはスレッジハンマーで殺害された。岬に遺棄されたジャッキーの耳にはアイスピックが刺さったままだったという。
 ちなみに、録音されていたのはこの件である。

 9月30日にはシャーリー・サンダースが誘拐されたが、幸いにも彼女は逃げ出すことに成功している。
しかし、彼女は犯されたトラウマからか、犯人を特定することは出来なかった。また、車のナンバーも憶えていなかった。そのために更なる犠牲者が出てしまった。

 10月31日にはリネット・レッドフォード(16)が誘拐された。やはり犯されて、拷問された挙げ句にハンガーで絞め殺された。この件も録音されていたという。このたびは大胆不敵にも、遺体をとある家の庭に放置した。理由はマスコミや市民の反応を知りたかったからだという。

 2人の逮捕は呆気ないものだった。ノリスの馬鹿が犯行の一部始終を囚人仲間のジミー・ダルトンに自慢げに打ち明けていたのだ。ダルトンはどうせ大法螺だと取り合わなかったが、リネットの遺体が発見されるや蒼醒めた。
「あの野郎の話は本当だった!」
 そして、弁護士を通じて警察に通報したのである。

 かくしてお縄となったノリスは、司法取引に応じて相棒を売った。主犯は相棒だとさえ主張したのだが、私は同罪だと思う。にも拘らずノリスは終身刑、ビッテイカーは死刑なのは如何にも理不尽である。
 ちなみに、ビッテイカーは2009年現在もなお死刑囚監房で生きている。多くの「プリズン・グルービー」から愛されて、ファンレターを読む毎日だという。アホらし。

(2009年4月14日/岸田裁月) 


参考文献

『連続殺人紳士録』ブライアン・レーン&ウィルフレッド・グレッグ著(中央アート出版社)


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