リシャール・ブラス
Richard Blass (カナダ)



犯行現場


リシャール・ブラス

 ケベック州モントリオールのナイトクラブ「ガルガンチュア」は、裏社会の人々がたむろする如何わしい場所として知られていた。客のほとんどは前科者で、密売や情報交換の場として利用されていた。

 そんな悪の巣窟でロジェ・レヴェックレイモン・ローランという2人の前科者が射殺された。1974年10月30日のことである。間もなく警察は目撃者の証言から犯人の目星をつけた。数週間前に刑務所から脱走したリシャール・ブラス(29)というお尋ね者である。彼は1969年1月の銀行強盗の件で服役していたわけだが、その時の共犯者がレヴェックとローランだった。両名は司法取引に応じて、主犯たるブラスに不利な証言をした。つまり、このたびの犯行は我が身を売られたことへの復讐だったのである。

 ブラスの行方が知れぬまま3ケ月が過ぎようとしていた頃、「ガルガンチュア」から火の手が上がった。1975年1月21日深夜のことである。どうにか消火を終えて現場を捜索していた消防士は、ジュークボックスで入口を塞がれた保冷室を発見した。その上、御丁寧にも南京錠が掛けられている。これはただごとではないぞとジュークボックスを動かしてドアを蹴破ると、狭い室内には13人(うち3人は女性)が折り重なるようにして死亡していた。

 13人のうち12人は窒息死だったが、クラブの支配人たるレジーン・フォルタンだけは背中を銃で撃たれていた。彼は先の事件の目撃者だった。故にこのたびの犯行もブラスの仕業を見て間違いないだろう。つまり、ブラスは口封じのために再び店を訪れ、支配人を殺害した後、証人をすべて亡き者にするために保冷室に閉じ込めて、ガソリンを撒いて火を放ったのである。
 人はここまで冷酷になれるものであるのだなあ。改めて感心する。
 ちなみに、3人の女性のうちの1人はフォルタンの妻、残りは店のトップレスダンサーだった。

 3日後の1月24日、タレ込みによりブラスがヴァル=ダヴィ付近の山荘に潜伏していることが判明した。ブラスは抵抗したために機関銃の銃弾を浴びて蜂の巣になった。即死だった。
 共犯者のフェルナン・ボーデも逮捕されたが、彼は証拠不十分のために釈放されている。

(2011年1月6日/岸田裁月) 


参考資料

『THE ENCYCLOPEDIA OF MASS MURDER』BRIAN LANE & WILFRED GREGG(HEADLINE)
http://www3.gendisasters.com/fires/9285/montreal-qb-night-club-fire-jan-1975
http://www.findagrave.com/cgi-bin/fg.cgi?page=gr&GRid=37293655
http://en.wikipedia.org/wiki/Richard_Blass


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