ダニエル・クランプ
Daniel Eugene Crump (アメリカ)


 1980年9月20日、カンザス州オラースの民家が突如として爆発し、一家6人が死亡した。

 ロバート・ポスト(51・家長)
 ノーマ・ジーン・ポスト(47・妻)
 リチャード・ポスト(21・次男)
 スーザン・ポスト(20・長女)
 ダイアン・クランプ(19・次女)
 ジェイムス・ポスト(10・三男)

 幸いにも長男のデヴィッドと、ダイアン・クランプの息子で生後3ケ月のランディ、そして遊びに来ていた近所の子供、クレイグ・ウェバーの3人は一命だけは取り留めた。しかし、重傷であることには変わりない。

 専門家による現場検証の結果、爆発の原因はダイナマイトであることが判明した。つまり、これは事故ではない。何者かが故意に爆発を招いたのだ。歴とした殺人事件である。
 近所の者によれば、その日の朝、道路に停められていたポスト家の車のボンネットの上に、何やら箱のようなものが置かれていたという。そして、誰かがその箱を家の中に持ち込み、その数分後にキッチンで爆発したのだ。いったい誰が箱を置き、誰がキッチンに持ち込んだのだろうか?

 被害者の背後関係を洗った警察は、間もなく次女のダイアン・クランプが離婚係争中であることを突き止めた。夫のダニエル・クランプと息子の養育権を巡って争っていたのだ。そして、2ケ月前にはダイアンが何者かに狙撃されていたことも判明した。それは裁判所がダイアンに養育権を認めた直後の出来事だった。また、クランプは友人に「ダイナマイトでポスト家の車を粉々にしてやる」と嫌がらせの計画を打ち明けていた。誰が犯人であるかは云わずもがなである。

 つまり、こういうことだったのだ。クランプの目的はあくまでも自家用車の破壊のみだった。ところが、ポスト家の何者かがその箱に気づき、家の中に持ち込んでしまった。そのために6人が死亡する惨事を招いてしまったのだ。探偵小説にはよく「犯人が予期せぬ事後従犯」が登場するが、本件がまさにそのケースで、しかも、それが被害者本人だったのである。極めて稀有なケースと云えよう。

 この場合、クランプに全ての責任を問うことは酷のようにも思えるが、人が死んでも不自然ではない状況を作り出したことは確かであり、被害者が爆発物を家の中に持ち込むことも予想して然るべきである。故に未必の故意が認定されて、クランプは6件の殺人と3件の殺人未遂で有罪となり、6回の終身刑と80年の刑が云い渡された。已むを得ない結論である。

(2009年5月6日/岸田裁月) 


参考文献

『THE ENCYCLOPEDIA OF MASS MURDER』BRIAN LANE & WILFRED GREGG(HEADLINE)


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