クリスティーン・フォーリング
Christine Slaughter Falling (アメリカ)



クリスティーン・フォーリング

 クリスティーン・フォーリングは1963年3月12日、フロリダ州ペリーで生まれた。元々の姓はスローターだった。後の連続殺人犯が「虐殺」という意味のある名前で生まれたのだから何だか物凄いが、それはさておき、何故に姓が変わったのかというと、4歳の時にフォーリング家に養子に出されたのである。子供が育てられないほどに実家は貧しかったのだ。
 貧しかっただけではない。彼女は生まれながらにして様々な不幸を背負っていた。癲癇症で知的障害があり、吃音症で、おまけに肥満症だった。10歳になった辺りからぶくぶくと太り始めたのだが、尻軽なので男には不自由はしなかった。
 性経験はかなり早い。12歳の時である。この頃から不良仲間とつきあい始め、口からでまかせを云う、万引きをする、誰とでも寝る等、手に負えない不良少女になっていた。

 クリスティーンについて語る際に必ず触れられるエピソードがある。彼女は不良少女になる前から、しばしば猫を殺していたというのだ。空高く放り投げたり、壁に叩きつけたり、首を締めたりして殺していた。そのことを咎められると、彼女は云った。
「猫には本当に9つの命があるかどうか確かめたかったの」

 1977年9月19日、14歳のクリスティーンは二十代前半の男と結婚する。しかし、6週間後には離婚する。原因は彼女の癇癪である。少しでも気にくわないことがあると盛大に暴れたのだ。或る時などはステレオを夫の頭に投げつけたという。いやはや、これでは別れられても仕方がない。

 離婚後のクリスティーンはすっかり塞ぎ込み、やがて狂ったかのように病院に通い始めた。曰く、蛇に噛まれた、湿疹ができた、扁桃腺が腫れた、骨がずれた、油で火傷した、膣から出血した等々、様々な症状を訴えた。2年間で50回もの診察を受けたというから尋常じゃない。おそらくミュンヒハウゼン症候群を発症したのだろう。

 クリスティーンの主な仕事はベビーシッターだった。知能指数が69しかなかった彼女にはそれが精一杯だったのだ。
 ちなみに、彼女は恋人たちに「知能指数は69(シックス・ナイン)なの」と、それが恰も性的な意味であるかの如く吹聴していたという。

 1980年2月25日、クリスティーンが面倒を見ていたキャシディ・ジョンソン(2)が急に意識を失い、2日後に病院で死亡した。医師は頭部に打撲傷を発見した。クリスティーンを問いただすと、彼女はこう答えた。
「ベッドから落ちたことがあるので、その時の傷なのかも知れません」
 医師は納得しなかった。
「幼女はクリスティーンに虐待されていたのではないだろうか?」
 彼は「ベビーシッターを警察に調べてもらうべき」と両親に忠告したが、クリスティーンが調べられることはなかった。彼女が嘆き悲しむ様を目の当たりにしていた両親は「そんなことはありえない」と疑うことさえしなかったのである。

 翌年、クリスティーンが面倒を見ていたジェフリー・デイヴィス(4)が急に死亡した。死因は心筋炎と診断された。
 その3日後、ジェフリーの従兄弟のジョセフ・スプリング(2)が急に死亡した。彼はジェフリーの葬儀の間、クリスティーンに預けられていた。

 この事件後、クリスティーンにベビーシッターを頼む者はいなくなった。そりゃそうだろう。立て続けに2人の子供が死亡したのだ。縁起でもない。已むなく彼女はウィリアム・スウィンドル(77)の女中になった。ところが、勤めた初日にスウィンドルは死んでしまう。彼は心臓病と癌を患っていたので、検視解剖されることはなかった。

 次に死亡したのは義姉の娘、ジェニファー・ダニエルズ(生後8ケ月)だった。病院に予防接種を受けに行き、車で帰る途中、母親が買い物に出かけている間に昏睡状態に陥ったのだ。もちろん、面倒を見ていたのはクリスティーンだった。

 1982年7月2日にはトラヴィス・コールマン(生後10週間)が死亡した。彼は肺炎を完治し、病院から出たばかりだった。母親は久しぶりに羽根を伸ばしたいと考え、クリスティーンに息子を預けた。これがいけなかった。翌朝にはトラヴィスは死んでいた。

 このたびはようやく殺人であることが検視解剖により認定された。死因は窒息死である。検視官は語る。
「この事件で教えられたのは、証拠を残さずに子供を殺害することは信じられないほどたやすいということです」
 動脈の或る部分を押さえるだけで子供を殺すことが出来るというのだ。そして、クリスティーンはその技を実践で習得していたのである。

 キャシディ・ジョンソン、ジェニファー・ダニエルズ、トラヴィス・コールマンの3件でのみ起訴されたクリスティーンは、有罪となり終身刑を宣告された。彼女は現在もなお塀の中にいる。

(2011年1月20日/岸田裁月) 


参考資料

『世界を凍らせた女たち』テリー・マナーズ著(扶桑社)
http://www.francesfarmersrevenge.com/stuff/serialkillers/falling.htm


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