ヴィクター・フェガー
Victor Feguer (アメリカ)



ヴィクター・フェガー

 しかし、殺人者にしてはいい面構えだなあ、この男。

 それはともかく、ヴィクター・フェガーはミシガン生まれの流れ者だ。その経歴は詳らかではないが、おそらく前科者だろう。堅気だったとはとてもじゃないが思えない。
 そんな彼がアイオワ州ダビュークの安下宿に住みついたのは1960年夏のことである。そして、7月11日に近所の開業医、エドワード・バーテルズに電話して、
「連れの女が急に具合が悪くなったんだ。往診してくれないか」
 と、嘘を並べて呼び出した。その後は銃で脅して誘拐し、イリノイ州まで車で飛ばしたところで始末する手筈だった。目的はもちろん強盗である。医師を狙ったのはモルヒネが欲しかったからだろう。後日、バーテルズの遺体は州境を越えた辺りのトウモロコシ畑で発見された。頭を銃で撃たれていた。
 なお、フェガーがバーテルズを選んだのは全くの偶然だった。電話帳でアルファベット順に電話を掛け、初めて繋がったのがバーテルズだったのである。運がなかったとしか云いいようがない。

 わざわざ管轄の異なるイリノイ州で殺害したのは捜査を撹乱させるためだと思われる、しかし、これは大失敗だった。州を跨いだことで連邦犯罪になり、FBIが乗り出してしまったのだ。かえって己れの首を絞めることになってしまったのである。かくしてフェガーは数日後、アラバマ州モンゴメリーで被害者の車を売ろうとしているところを逮捕された。実に呆気ない結末だった。

 連邦犯罪になったわけだから、フェガーは州裁判所ではなく連邦裁判所で裁かれた。そして、殺人の罪で有罪となり、絞首刑が宣告された。
 1963年3月5日、アイオワ州立刑務所に移送されたフェガーは、そこで10日間、極めて模範的な囚人として過ごし、3月15日の夜明けと同時に絞首刑に処された。アイオワ州では1965年以来、死刑が廃止されたままなので、彼が最後の死刑囚ということになる。

 ちなみに、アメリカの死刑囚は処刑前夜に望み通りのものを食べられる習わしになっているが、フェガーが望んだのは「オリーブの実ひとつぶ」だった。埋葬された後に己れの遺体からオリーブが芽生え、やがて木となり、実を結ぶことを思い描いたのだろうか? ところが、そのオリーブの実は処刑後に彼のポケットから発見された。
 なんだよ。喰ってなかったのかよ。
 とにかく、極悪非道の犯行にも拘らず最後の最後で奇妙なエピソードを残した、一風変わった殺人者であった。

(2011年5月28日/岸田裁月) 


参考文献

http://en.wikipedia.org/wiki/Victor_Feguer
http://www.findagrave.com/cgi-bin/fg.cgi?page=gr&GRid=8459613
http://www.famouslastmeals.com/2010/09/victor-feguer.html
http://eotd.wordpress.com/2008/03/15/15-march-1963-victor-feguer/


BACK