ロバート・モーズリー
Robert Maudsley (イギリス)



ロバート・モーズリー

 トマス・ハリスの小説『ハンニバル』において、ハンニバル・レクター博士は脳味噌を調理はしたが、自らは食べていない。司法省のチンピラ役人、ポール・クレンドラーに食べさせただけだ。然るにロバート・モーズリーは自ら食べた。しかも生で。故にモーズリーの方がレクター博士よりも一枚も二枚も上手である。

 1953年6月にリヴァプールで生まれたモーズリーは、ご多分に洩れず虐待されて育った。社会福祉局の働きで施設に収容されたのは8歳の時だった。10代半ばでドラッグに溺れ、代金を稼ぐために男娼に身をやつした。誠に不幸な生い立ちである。
 最初の殺人は1974年のことだった。ジョン・ファレルという男に抱かれた際に、子供のボンデージ写真を見せられた。かつて虐待された記憶が蘇ったのだろうか。頭に血が上ったモーズリーは、気がついたらファレルを絞め殺していた。
 かくして終身刑を宣告されたモーズリーは、刑事犯専門の精神病院、ブロードムアに収容された。

 3年後の1977年、モーズリーはもう一人の仲間と共にペドフィリアの収監者(氏名不詳)を人質に取って監房に立て籠った。看守たちが強行突入した時には、人質の頭は「卵のように」パックリと割れて、中にはスプーンが突っ込まれていたという。つまり、食べたのである、生のまま。

 この件ゆえにウェイクフィールド刑務所に移送されたモーズリーは、間もなくブロードムアに逆戻り。そして、1978年に再び殺人を犯す。強姦犯のサルニー・ダーウッドを自らの監房に招き入れて刺し殺し、遺体をベッドの下に隠した。その後、まだ物足りなかったのか、病院内を獲物を求めて徘徊し、ビル・ロバーツを刺し殺してようやく満足。「今日の仕事は終わり」とばかりに所長室のドアをノックし、このように報告した。
「次の点呼では2人足りないですよ」
(The next roll call would be two people short.)

 この件以来、モーズリーは一切の行動の自由を奪われた。そして、1983年にはウェイクフィールド刑務所の地下に新設された特別監房に収容された。防弾ガラス張りで、机と椅子はボール紙製だ。24時間、少なくとも5人の看守の監視下に置かれた。まさに『羊たちの沈黙』のレクター博士と同じ境遇に置かれたわけだ。既に25年以上もそこで暮らしている。彼には『羊たちの沈黙』を読む機会も観る機会もないだろうが、レクター博士のことを知ったならば、おそらくこう思うことだろう。
「同士よ、よくぞ脱走した。願わくば、私の脱走を手助けしてはくれまいか」

(2009年12月22日/岸田裁月) 


参考資料

http://en.wikipedia.org/wiki/Robert_Maudsley
http://www.murderuk.com/cannibal_robert_maudsley.html


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