クレイグ・プライス
Craig Price (アメリカ)



クレイグ・プライス

 1989年9月4日、ロードアイランド州ウォリックの閑静な住宅街で、白人女性のジョアン・ヒートン(39)と2人の娘、ジェニファー(10)とメリッサ(8)の惨殺死体が発見された。発見者はジョアンの母親だった。電話をしても出ないので、訪ねてみたらこの有り様だ。遺体は自宅のキッチンで滅多刺しにされていた。また、メリッサはスツールで頭を叩き割られていた。女子供になんてえことをしやがるんだ。犯行の余りの惨さに、ベテランの捜査官でさえも涙を禁じ得なかった。

 検視によれば死後3日は経過していた。性的暴行が加えられていないこと、そしてキッチンナイフが失われていることから、空き巣の犯行と思われた。つまり、いざ侵入したものの家人に気づかれ、騒がれる前に手近にあったキッチンナイフで滅多刺しにしたのである。極めて稚拙な犯行である。地元警察から協力を求められたFBIのプロファイラーは犯人像をこのように分析した。

「犯人は近所に住んでいる可能性が高い。このような稚拙な物盗りはよく知っている家を狙うことが多いからだ。また、犯人は過去にも同じようなことを繰り返していると思われる」

 この分析を受けて注目されたのが2年前の事件だった。1987年7月27日、ジョアン・ヒートンの家から5件しか離れていない家でレベッカ・スペンサー(27)が惨殺された事件である。やはりナイフで滅多刺しだ。余りにも酷似している。おそらく同じ者による犯行だろう。

 1989年9月5日、つまり遺体が発見された翌日に現場付近を巡回していた捜査官は、一人の大柄な黒人少年の姿を眼にした。クレイグ・プライス(15)。手には包帯が巻かれていた。捜査官はここでプロファイラーの次の言葉を思い出した。

「これだけ滅多刺しにしているのだから、犯人もナイフで負傷している可能性がある。包帯をしている者は要注意」

 捜査官はクレイグを呼び止めて訊ねた。
「昨日、近所で殺人事件が発覚したのは知ってるかね?」
 クレイグはにこやかに答えた。
「ああ、知ってるよ。死体を運び出すところを見ていたから」
 彼もまた、この近所の住人だった。捜査官は訊ねた。
「ところで、その手はどうした? 怪我をしているみたいだが」
 プライスは屈託なく答えた。
「ああ、これ? 昨日、早いうちから酔っぱらっちゃってさあ、キーリー通りに停まっていた車の窓に思いっきりパンチしちゃったんだよ。ガラスが割れてイテテのテだよ」
「君、そんなことしちゃイカンぞ。他人の所有物だろ?」
「あはは、ごめんなさい。今度から気をつけま〜す」
 捜査官はこの時、直感した。この少年が犯人だと。

 キーリー通りではそのような器物損壊の報告例はなかった。つまり、嘘八百だったのだ。
 クレイグの周辺を洗うと、まともな少年ではないことがすぐに判明した。これまでにも暴行や窃盗、覗きや麻薬所持のかどで何度も補導されている。少年ギャング団のようなものの番長格で、仲間内では「レベッカ・スペンサーを殺したのはおいらだぜ」などと自慢していたという。こりゃもうホンボシと見て間違いないだろう。

 家宅捜索が行われたのは9月17日の早朝のことだった。家族は大いに動揺していたが、クレイグだけはへっちゃらで、仕舞いにゃカウチでグースカと高鼾をかき始めたという。もうこの時点で犯人確定だが、とにかく証拠は保全しなければならない。
「あったぞ!」
 間もなく裏庭の物置から、血まみれのキッチンナイフや衣類、手袋等が入ったゴミ袋が発見された。叩き起こされたクレイグは直ちに警察に連行されたわけだが、その際にもヘラヘラと笑っていたという。

 何故にクレイグは笑っていたのか? 訴追されないことを知っていたからである。ロードアイランド州では16歳未満の者を成人に準じて刑事事件で裁くことが出来なかったのだ。最大5年の感化院での矯正を経れば娑婆に出られるシステムだったのである。
 これには遺族たちは激怒した。じゃあ何かい? ガキならば何をしてもいいんかい? そんなワケはなかろうと、16歳未満であっても凶悪事件においては成人と同様に裁かれる旨の法案が議会に提出されたが、クレイグの事件には遡及されない。はて、どうしたものか?
 ところが、クレイグ・プライスという大馬鹿者は感化院内でも暴力事件を繰り返し、そのたびに刑期が延長されている。今のところ2020年5月まで釈放されない予定である。

(2011年4月26日/岸田裁月) 


参考資料

http://en.wikipedia.org/wiki/Craig_Price
http://www.trutv.com/library/crime/serial_killers/predators/craig_price/index.html
http://www.crimezzz.net/serialkillers/P/PRICE_craig_chandler.php


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