ナサニエル・ブラジル Nathaniel "Nate" Brazill (アメリカ)
フロリダ州レイクワースのレイクワース中学校に通うナサニエル・ブラジル(13・通称ネイト)は優秀で模範的な生徒だった。校長のボブ・ハッチャーは後にこのように語っている。 「ネイトは素晴らしい少年だった。銃を撃つまではね」 彼の生い立ちは円満ではなかった。実父のナサニエル・ブラジル・シニアが大酒飲みで、DVを繰り返したのだ。結局、母親のポリーはナサニエルと別れて(籍は入れていなかったようだ)、マーシャル・パウエルと結婚した。その後、妹のエボニー(事件当時1歳半)が生まれるが、ネイトが実父の姓のままであったことを思うと、家庭の複雑な事情が窺える。 また、ネイトは事件の数日前、拳銃を入手したことを友人に自慢していた。それは彼のゴッドファーザー、エルモア・マックレイ(76)の家から盗んだものだった。そして、友人たちと冗談で「処刑リスト」を書いていたという。「優秀で模範的な生徒」が暗黒面に傾き始めていたのだ。 銃の魔力が為せる業だったのだろうか? 事件が起こったのは2000年5月26日のことだ。その日はレイクワース中学校の学年終業日だった。ネイトは熱愛するディノーラ・ロセレス(13)へのプレゼントの花やカメラを携えて学校へと向かった。 だが、彼は些かはしゃぎ過ぎてしまった。友人たちとカフェテリアに水風船を投げ入れたことが問題となり、その日のうちに停学処分を喰らってしまったのだ。 老人ホームで勤務する母親のポリー・パウエルは、間もなく学校の生活指導員からの電話を受けた。 「かくかくしかじかで息子さんが停学処分になりました。学校まで迎えに来られますか?」 仕事が忙しかったポリーは「徒歩で帰して下さい」と答えた。そのことを彼女は悔やんでいる。 「今思えば、彼を迎えに行くべきだったと思います」 停学処分になったネイトは、帰宅途中で顔見知りのビザ配達人に出会い、家まで送ってもらった。そして、盗んだ拳銃を手にすると、自転車で再び学校へと向かった。その目的はよく判らない。彼自身にもよく判っていなかったようだ。 「僕は正気を失っていました。停学処分なんて初めてだったんです」 優等生だったネイトは、将来は大統領のシークレット・サービスになることを望んでいた。そんな彼がちょっとしたおちゃらけで人生に傷を残してしまったのだ。正気を失うのも判らないでもない。その不遇な生い立ちを考慮すればなおさらだ。 拳銃を手にしたネイトは301号室に向かった。彼が熱愛するディノーラ・ロセレスがいる教室だ。プレゼントの花を渡せなかったことを悔やんでいたのだろうか? 教師のバリー・グルーノウ(35)は彼を押し返した。 「まだ授業中だよ。君は自分のクラスに帰りたまえ」 バリーは笑みを浮かべてという。その笑みがネイトには許せなかった。彼はバリーに拳銃を向けた。バリーは叫んだ。 「それを手放せ!」 だが、ネイトが放った銃弾はバリーの眉間を貫いた。即死だった。 逮捕されたネイトは自問し続けている。 「どうして先生を撃ったのか、全く判りません」 ネイトは第2級殺人の容疑で有罪となり、28年の刑が云い渡された。現在もハーディー矯正施設に収容されている。
(2013年1月12日/岸田裁月)
http://en.wikipedia.org/wiki/Nathaniel_Brazill http://murderpedia.org/male.B/b/brazill-nathaniel.htm http://www.time.com/time/nation/article/0,8599,169246,00.html http://www.people.com/people/archive/article/0,,20134310,00.html
BACK