第10話 雲国斎の結婚秘話

「続いて、私に上半身が無かった時の話をしよう。第2次世界大戦のおり、私はドイツにいた。そこでユダヤ人と間違われて、ナチの収容所に入れられてしまったんだ。そこで私に待っていたものは、お決まりの人体実験さ。私の体は真っ二つに切断されてしまった。上半身はどっかに捨てられ、私は下半身だけになってしまった。しばらくして戦争は終わったけど、私の上半身は結局見つからず、下半身だけで日本に帰ってきた。下半身だけになるって寂しいもんだよ。何も聞こえないし何も見えないんだからね。何も食べられないし、何も喋れない。オナニーだって手でこすることが出来ないから布団にこすりつけてやっていた。拭く事が出来ないから出しっぱなしさ。はっはっは、こんな話は聞きたくないって。そうだろうな。でもね、悪い事ばかりじゃあないんだよ。人間生きていれば何か良い事があるものさ。その当時私は職を探していたが、そんな姿の人間を雇ってくれるところはなかった。絶望的だったよ。すっかりふさぎ込んでいるところに親戚のおじさんから縁談の話が来てね、見合いする事になったんだよ。信じられるかい?。下半身しかない男のところに見合いの話なんて。信じられないだろ?。でもね、ほら、見てくれよ」。
 雲国斎は一枚の写真をむしゃぶろうに見せた。書院造りの立派な和室に四角いお膳が中央に置いてあった。その左側には彼の叔父さんらしき男と、その前に下半身だけの男。それが彼なのであろう。お膳の右側には髪をきれいに結い上げた和服の年増が写っていて、その表情はにこやかだった。これは叔父さんの奥さん、つまり叔母さんであろう。そして、その前に白地に花の模様をあしらった振り袖姿の若い女が写っていた。俯いていて良くは分からないが、その横顔はどこか上品で、そこそこきれいである。
「で、これがその後の写真だ」。
 銀座の目抜き通りらしい石畳に、下半身だけの男と若くきれいな女が楽しそうに歩いていた。
「これが今のかみさんだよ」。
 雲国斎は少し自慢げに言った。
「え?。結婚したんですか?。下半身だけなのに」。
「下半身さえあれば、いわゆる夫婦生活ってものは出来るからね」。
「いや、それにしても職も無いし、会話も出来ないし、だって、言っちゃ悪いけど気味悪い」。
「ふっふっふっふふう」。
「あ〜、よほど立派な物をお持ちで」。
「そういう訳。シンボルちゃんサマサマだよ」。
「やっぱ、SEXですか」。
「まあね。俺はこのお見合いの最中ずっと勃起してた。いや、させてたんだな。だってその時の自分にはそれしか武器はないわけだからね。俺はその時の自分に出来る事を精一杯にやってみせた。男である自分の武器を最大限に表現してみせたのさ。そして彼女はそんな俺に惚れたって訳さ。結構強引だったけど、入れてしまえばこっちのものだった。後はスムーズだったよ。彼女喜んでねえ、もう離れられないっていつまでもしゃぶってた」
「いい話ですね」。
「だろ。だからね、鈴木宗男にも頑張って欲しいんだよ」。
「鈴木宗男がなんで出てくるんですか?。あいつそんな所にも関与してたんですか」。
「馬鹿、俺の結婚に関与するわけないだろ。利権は絡まないんだから。違うんだよ、人間の生き方の事を言ってるんだよ。鈴木宗男はこのままだと自殺すると思うよ。新井しょうけい(字は忘れた)然り、中島代議士然りだよ。日本人は都合が悪くなると自殺するんだ。国民性、民族性なんだろうな。自殺が好きなお国柄なんだよね。だから、今回もよほど松山千春が頑張らない限り宗男は自殺するね。で、そこで言いたいんだよ。こんな俺でも良い事あったんだから宗男ガンバレと。生きろと、言いたいわけ」。
「ああ、なるほど」。
「わかったか」。
「ああ、わかりました.....けど、この話ナンナノ?」。
「ナンナノってこと無いでしょ。生きるって事は大事な事なんだよ。人生とは人が生きると書いて人生だ。生きなきゃ人生とは言えないじゃないか」。
「まあね、そりゃそうだけど。ちょっといいですか?」。
「なんだね」
「先生は下半身しかなかったんですよね。でも今ありますよね。顔も、頭も、胸も、腕も、全部五体満足にありますよね。その体どこで手に入れたんですか? まずそれが聞きたいな。鈴木宗男の話よりも」。
「だからね、話は最後まで聞きなさいって。つづきがあるんだから」。
「ああ、まだ続くんですか?」 。

つづく

(編者註:むしゃぶろうが完全にうっちゃられて、別の話になってしまっている)。


つづく