第24話 改名指南

 ウサマビン・ラディン。本名、チンポコ辰五郎。通称、チンポコの辰。俗称、チン辰
 彼は自分の本名にコンプレックスを持っていた。(特に苗字のほうに)。だから彼はみずからを名乗る場合偽名を用いた。気が変わり易い性格なのか、その名には一定のものはなく、その時々流行と言うか、話題になっている人物の名を名乗ることが多かった。だから一年前はウサマビン・ラディンと名乗っていたが、半年前にはサダム・フセインと改名し、またそれも古くなってきたので、最近では「りそな」にしようか「SARS」に しようか、はたまた別の名前にしようかと思案中である。

「ウサマビン・ラディン!」。
 乳之崎むしゃぶろうは立ち止まった。
「私はもはやウサマビン・ラディンではない」。
 ウサマビン・ラディンと名乗っていた男は言った。
「ふっふっふっふっ」。
 むしゃぶろうは不敵に笑った。(何故笑ったのかは不明
「そうか。では、なんなのだ!」。
「最近思案中だ」。
「ほほう。妙な名前をつけたもんだな。最近思案中とは…。で、どこまでが苗字でどこからが名前だ?」。
「馬鹿者。最近思案中などと言う名前があるか。今、考えているところだ」。
今、考えているところ?。また恐ろしく長い名前だ。今いくよ・くるよに弟子入りでもしたか。それにしても、『考えているところ』なんて名前じゃ売れないぞ。テレビ爛にも入りきらないし」。
「あのな、」。
「寄席に出るにしても、寄席文字が書きずらい…」。
「違うってば。名前は今考えているところなの」。
「だから、それじゃ長すぎるってば」。
「分かんねえ奴だな。もう良い、お前に俺の名前は教えない」。
「なんで」。
「だって面倒くさいよ、説明するのが」。
「そんな事言うなよ。教えてよ」。
「いやだよ。だって君馬鹿なんだもん」。
「ああ、そう。じゃあ、いいよ」。
「意外とあっさり諦めるね」。
「ふっふっふっふっふ」。
 むしゃぶろうは不敵な笑いを浮かべながら言った。
「お前がその気なら俺にも考えがあるから」。
「なんだよ」。
「俺が勝手に名前をつけてやる」。
「なに?」。
「俺がお前の名前を勝手に考えるってんだよ」。
 森の中に吹く風は新緑の季節。多くの命が宿る大自然の息吹。
「そう、お前は今日から和男だ。山田和男だ〜」。
「ええ〜!、嫌だよそんなの〜。平凡すぎるよ」。
「お前がいくら嫌がろうと、お前は山田和男だ。少なくとも俺の中ではお前は今日から山田和男なんだ〜」。
「わけわかんねよ〜」 。

つづく