シベリア超特急
SIBERIAN EXPRESS

日本 1996年 カラー
監督 水野晴郎
脚本 水野晴郎
出演 水野晴郎
   かたせ梨乃
   菊池孝典
   西田和晃
   占野しげる
   アガタ・モレシャン


 いやあ、これはスゴい。久しぶりに見たスカタンであった。

 そもそも水野晴郎という人は、昔から笑いの対象であった。どんな映画からでも「病んだ現代社会への作者の込めたメッセージ」を読み取る『水曜ロードショー』での解説はマイ・フェイバリットだった。毎週、弟と一緒に「今日はいったい何てこじつけるだろう?」と楽しみにしていたものだ。
 それから、時間が余った時に放映される『水野晴郎の映画がいっぱい』。たいてい新作の予告編なのだが、たまに水野さんの制服コレクションの自慢があった。アメリカの警察官と水野さんが肩を組んでいる写真なんかが紹介されて、映画とはまったく関係がない。『刑事コロンボ』を放映した時に、意味もなく「アメリカ警察博物館」でロケしていたこともあった。(視聴者に展示物を紹介するわけではない。ただ水野さんが行きたかっただけ)。そんな制服フェチの水野さんが満を持して監督したのが本作なのだから、スットコドッコイなのは当たり前だ。


 まずキャスト。かたせ梨乃に菊池孝典(註1)はいいとして、これに西田和晃(通称ぼんちゃん)と占野しげるが主役級で並ぶ。誰それって感じだが、二人とも水野さんの弟子なのだ。これに、まったく見たことのない外人俳優数名と、これが映画初出演のフランソワ・モレシャンの娘.....。花がないことこの上ない。
 だいたいこうしたアガサ・クリスティー・タイプのミステリー映画は、オールスター・キャストであって初めて見られるってえもんだ。見知らぬ外人ばかりでは、誰が殺されようと、誰が犯人であろうと、まったく興味が湧いてこない。
 しかも、エルキュール・ポワロを連想させる探偵役に水野晴郎御本人。ヒッチコックと見まがうほどに迫り出したボデ腹をピッチリとした制服に包み、あの『水曜ロードショー』での名調子は何処へやら、棒読みの謎解きには、観客の心は動かざること山の如しである。

 物語はあきらかに『オリエント急行殺人事件』の剽窃。『北北西に進路を取れ』を思わせるタイトルを始めとして、あまりにも多くの映画へのオマージュで溢れているが、それがまったく物語に生かされていない。
 例えば、ドアが開かない部屋に入るために、ぼんちゃんが車外にロープを張って、窓ガラスを蹴破って颯爽と入室する。市川昆の『雪之丞変化』へのオマージュだそうだが、わざわざそんな危険なことをしなくても、ドアを蹴破ればいいのである。


 謎解きがこれまた複雑怪奇で、本編の中にどんでん返しがいくつもあるのだが、圧巻なのは何といっても、エンドクレジットが終わった後の2回のどんでん返しであろう。
 ジ・エンドの文字が出たというのに、水野さんの「カーット!」の声が鳴り響き、映画はまだ続いている。みなさんのおかげでいい映画ができましたよと、俳優たちの功をねぎらう監督水野氏。すると、女優かたせ梨乃が何者かに殺される。と、監督水野氏が探偵を始めて、
「犯人は占野君だあ」(もちろん棒読み)
 この後、さらに驚愕のどんでん返しがあるのであるが、これは各自が鑑賞して確認して頂きたい。

 なお、巷で大評判になった(悪い意味で)この「2回のどんでん返し」は、どういうわけか普通のDVDには収録されておらず、これを見るためには限定発売の特別編集版(2枚組、7800円也)を買わなければならない(註2)。これには編集の異なる3本の『シベ超』が収録されており、いったい誰がそのすべてを見るというのだ。水野晴郎のナルシズム、ここに極まれり、という感じだ。
 ところで、これは大事なことなのだが、DVD特別編集版には水野さんによる解説音声も収録されており、映画の中での棒読みとは打って変わった『水曜ロードショー』での名調子が堪能できる。イキイキとした解説とともに見る『シベ超』が大傑作に見えてくる水野マジック。この人、映画解説者としては天才的な腕を持っているのだ。天は二物を与えず。監督としては、はっきり云ってエド・ウッド以下である。

註1 この人はNHK連続テレビ小説『オードリー』で、倉田保昭をモデルにしたタイガー・ウォンを演じていた。

註2 この原稿を書いた後、しばらくして廉価版が発売された。ちくしょう。


 

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