WR:オルガニズムの神秘
WR: MYSTERIES OF ORGANISM

西ドイツ/ユーゴ 1971年 87分
監督 ドゥシャン・マカヴェイエフ
脚本 ドゥシャン・マカヴェイエフ
出演 ミナレ・トラビッチ
   ヤゴダ・カロペル


 ウィルヘルム・ライヒを知るために見た映画である。しかし、ライヒに関する部分は冒頭の20分程度で、残りは大して面白くもない寸劇であった。

 ウィルヘルム・ライヒはこのように唱えた。
「プロレタリアートの性的欲求不満がその政治意識に萎縮をひきおこす。性衝動の完全な解放によってのみ、労働階級はその革命的潜在意識を発揮し、その使命を実現することができる」
 1927年の著書『オルガスムの機能』においてである。フロイトの弟子であったエリート学者の地軸はこのあたりから傾き始めた。その主張には「なるほど」と思わせる部分もないことはないが、やはりフロイト的な発想をマルクス主義にストレートに持ち込むのは極端である。マルクス主義者からの賛同は得られず、また、ナチスを「性的に抑圧されたノイローゼ患者のサディステックな表現」と批判したことからベルリンには居られなくなり、放浪した挙げ句にアメリカに渡る。
 この頃のライヒは、心理学者ではなく「生物物理学者」を名乗っていた。放浪先のノルウェーで「オルゴン」を見つけてしまったからである。
「オルゴン」について書くと長くなるのでやめるが、要するに、「ライヒにしか見えない宇宙エネルギー」である。生命の素でありオルガスムの素でもある。彼は「オルゴン・ボックス」を発明し、信者たちの治療を始めた。これがまずかった。食品医薬局は連邦裁判所に提訴し、「オルゴン・ボックス」の販売禁止、そしてライヒの著書の焼却命令が下った。
「オルゴン」に関係ない著書までもである。
 この命令の背景には、当時流行の「赤狩り」がある。かくして、マルクス主義者の「生物物理学者」は、その言論を圧殺された。

 時を経て、カウンター・カルチャーの隆盛を迎えた60年代後半、性の解放、すなわちフリー・セックスを唱えるライヒは再び脚光を浴びた。この映画が製作されたのもその頃である。しかし、間もなく、性の解放を実践するヒッピーによる犯罪が明らかになった。チャールズ・マンソンの事件である。かくして、ライヒの理論に瑕疵があることが実証された。
「性の解放は、いいこと尽くめとは限らない」
 今日でも『ムー』かなんかでライヒの名を眼にすることがある。「オルゴン・ボックス」の広告も見かけるが、「オルゴン」は「ライヒにしか見えない宇宙エネルギー」のことである。いにしえのキチガイ博士と心中する覚悟があるなら、試してみるのも一興であろう。


 

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