海外ではカルトとして絶大なる支持を得ていても我が国では殆ど知られていない作品というのが結構あって、本作もまたその一つである。監督は後に『コフィー』でパム・グリアを世に送り出すジャック・ヒル。デビュー作である本作は、今日では『悪魔のいけにえ』の先駆として高く評価されているが、当時は金銭的トラブルに巻き込まれてオクラ入り。ようやく4年後に公開された時には、白黒映画であったためにすっかり古くなってしまっていて(ちょうど白黒からカラーへの端境期だった)、ドライブイン・シアターでの添え物的な扱いしかされなかったという、極めて不遇な作品なのである。
メリーズ家の血は呪われていた。10歳を過ぎた頃から知能がどんどんと後退し始め、最終的には食人鬼と化してしまうのだ。当主のテトスは執事のブルーノにすべてを託してこの世を去った。
「息子のラルフ、娘のヴァージニアとエリザベスを宜しく頼む。そして、地下牢にいるネッド叔父さんとマーサ叔母さんも」
叔父さんと叔母さんは既に食人鬼と化していた。そして、息子たちもゲラゲラニコニコと笑いながら無邪気に人を殺す怪物と成り果てていた。
或る日のこと。メリーズ家に手紙を届けにやってきたポストマンをヴァージニアがいつもの「スパイダーごっこ」でメッタ切りにしてしまった。怒るブルーノ。
「また殺したのか!。やっちゃったことはしょうがない。叔父さんたちに食べさせてあげなさい」
そう指示しながら手紙に目を通すと、メリーズ家の親戚が財産分与の件で弁護士を連れて来るという。日付を見ると、なんと今日だ。
さあ、大変だ!。
ブルーノはポストマンの屍体を片付けて、血糊をきれいに掃除して、なんとか穏便に事を運ぼうとするが、「スパイダー・ベイビー」たちの血は収まらない。獲物が罠にかかったとばかりに、一人また一人と血祭りに上げるのであった。
製作費6万5千ドル、わずか12日で撮影された低予算映画だが、その飄々とした演出と、個性的な出演者の好演が奏功して、一級のブラックユーモアに仕上がっている。
特に、ヴァージニアに扮したジル・バナー(当時17歳)の存在感は圧倒的だ。事もなく駆け寄り、二刀流でメッタ斬りにする様は華麗ですらある。
ラルフに扮するのはジャック・ヒル映画常連のシド・ヘイグ。スキンヘッドの怪演には、本当の精薄かと見紛うほどだ。
そして、執事ブルーノには、ベラ・ルゴシやボリス・カーロフと並ぶ「C級怪奇映画」の守護神ロン・チェイニー・Jr.。晩年のチェイニーも随分なアル中だったが、本作の脚本をかなり気に入っていたようで、ギャラの値引きにも応じ、撮影中は禁酒を貫いたとか。それほどの野心作であったにも拘わらずオクラ入りしてしまったとは、誠に残念なことである。
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