アラン・スミシー・フィルム
AN ALAN SMITHEE FILM : BURN HOLLYWOOD BURN

米 1998年 86分
監督 アラン・スミシー(アーサー・ヒラー)
脚本 ジョー・エスタハス
出演 ライアン・オニール
   エリック・アイドル
   ジョー・エスタハス



 今日、この原稿を書くためにインターネットで検索したら、怒りのお言葉ばかりだった。無理ねえよなあ。なにしろ、この国でのリリースのキャッチ・コピーが「スタローン、ウーピー、ジャッキー、3大スター夢の競演」だったんだから。アクション巨編を期待して、騙されちゃった人も多かったのだと思う。
 実際は、ドキュメンタリー・タッチの「ハリウッド内幕もの」である。3大スターは本人の役で特別出演しているに過ぎない。アクションもなければ、血も出ない。まことに地味な作品である。
 しかし、騙された人に敢えて云う。
 あんた、勉強不足だよ。
 ジョー・エスタハスが脚本の、アラン・スミシー監督作品だぜ。アクション巨編なわけないじゃないか。

 そもそもこの映画、ハリウッドの裏事情、殊にジョー・エスタハスとアラン・スミシーを知らない人にはまったく楽しめない作品である。
 まず、アラン・スミシーとはいったい誰なのか?。
 アラン・スミシーという人物は実在しない。監督が製作者と編集を巡って揉めて、「俺の名前は使わないでくれッ」となった場合にクレジットされるのが「アラン・スミシー」なのである(これは監督組合の規約で決まっているらしい)。実際にアラン・スミシー名義になった作品には、スチュアート・ローゼンバーグの『ハリー奪還』、デニス・ホッパーの『ハートに火をつけて』、デヴィッド・リンチの『砂の惑星・TV版』などがある。
 で、「本当にアラン・スミシーという名前の監督がいたらどうなるか?」を描いたのが本作なのである。


 次に、ジョー・エスタハスとは誰なのか?。
 彼の名がクローズアップされたのは『氷の微笑』の時であった。あの愚にもつかない脚本に、史上最高の300万ドルが支払われたからである。この話題が手伝って『氷の微笑』は大ヒット。しかし、大駄作であることには異論がなかった。にも拘わらず、カロルコは更にヒドい『ショーガール』にも同額を支払う。しかし、興業は記録的な大赤字。莫大な借金を抱えてカロルコは倒産。かくして、エスタハスの名は地に落ちた。
 そんな彼が再起を図って放ったのが本作なのである。『ショーガール』での悪名を精算するべく、その失敗を自虐的にネタにしたのだ。(本編中、「そんなにヒドい映画なのか?」と訊かれて、アラン・スミシーが「最低さ。『ショーガール』よりヒドい」というシーンがある)。
 つまり、この映画の主人公、アラン・スミシーとは、ハリウッドを追われた彼自身のことなのである。


 物語は、前半はたしかに興味深い。
 アラン・スミシー監督は「3大スター」主演の2億ドルの超大作を任される。しかし、編集権を剥奪され、見るも無惨な作品に仕上がる。彼の名前がアラン・スミシーなので、名前を外してくれとも云えない。(結局、アラン・スミシーとクレジットされてしまう)。半ば発狂した彼は、公開させてなるものかとネガを持って失踪する.....。
 と、設定は面白いのであるが、展開がグズグズ。スミシーがマスコミの人気者になり、自伝の映画監督に抜擢される、という予定調和のうちに終わる。エスタハスの力量が知れる作品であった。
 アラン・スミシーに扮したエリック・アイドルと、製作者のライアン・オニールがいいだけに、残念な作品である。

 なお、本作は名匠アーサー・ヒラーの監督作であるが、名義はアラン・スミシーとなっている。シャレなのか、それとも本当に製作者と揉めたのか、真相は不明である(註!)。

註1 真相は、本当に揉めてヒラーは降板、製作会社は倒産、仕方なくエスタハスが引き受けてどうにか完成に漕ぎ着けた、ということらしい。


 

BACK