北京原人の逆襲
THE MIGHTY PEKING MAN
GOLIATHON

香港 1977年 91分
製作 ビー・キング・ショウ
   チュア・ラム
監督 ホー・メンファ
特撮 有川貞昌
出演 イヴリン・クラフト
   ダニー・リー


 ディノ・デ・ラウレンティス製作、ジョン・ギラーミン監督の『キングコング』はどうして面白くなかったのか?。その理由は、便乗映画である本作を見れば判る。『キングコング』は上品すぎたのだ。たしかに、これがデビュー作のジェシカ・ラングの半裸とおっぱいポロリのサービス・ショットはあることはあるが、下品さにおいて本作にはかなわない。なにしろこの映画の女ターザンは、セックスはするわ強姦されるわ、ドレスを買い与えれば脱ぎ捨てて、半裸のままで香港中を走り回るのだ。
 さすが香港映画。観客が何を見たいかを知り尽くしている。観客が見たいのは、女ターザンの性生活と、大猿のビル破壊スペクタクルなのだ。ビルの一つも壊さない『キングコング』は、観客の要求に一つも応えていなかったのである。

 ヒマラヤ奥地で巨大原人発見のニュースが世界中を驚かせる。機を見るに敏な興行師ルーは、冒険家のジョニーに原人捕獲を依頼する。
 このジョニーを演じるのがダニー・リー。今では『八仙飯店之人肉饅頭』等で知られる大プロデューサーであるが、当時は「ブルース・リーのそっくりさん」として『実録ブルース・リーの死』なんかに出ていたボンクラ俳優であった。そんな彼にとって本作は忘れてほしい作品であることは間違いない。

 映画前半は、まさに「秘境もの」。探検隊を象の大群や人喰いトラが襲い、血がドバドバと大サービス。底なし沼や断崖絶壁と「秘境アイテム」をすべて揃えて、観客を飽きさせない。これで食人族が出てくれば完璧だが、それだと別の映画になってしまう。そこで、早々に巨大原人と女ターザンを登場させて、物語はほのぼのとした「ターザンもの」にシフトする。ここまで約20分。完璧である。


 女ターザンは何故か化粧をしているが(上写真)、そんなことを指摘するのはヤボというものである。無駄毛の処理をしていない女ターザンなんか観客は見たくはないのだ。ジャングルの奥地で金髪美人の女ターザンと二人きり。そんな東洋人の夢を叶えてくれたこの映画に、私はまず感謝したい。
 彼女は幼い頃の飛行機事故で遭難し、巨大原人に育ててもらった野生児である。原人はもちろん、虎や豹、象まで彼女の云うがままで、密林の女王の名を欲しいままにしている。
(ちゃんと「アアア〜ッ」と雄叫びをあげながらツタからツタへと渡るシーンもあり、ツボは外さない)。
 そんな身の上だから当然に処女で、観客の興味はセックスへと向かう。そんな時に都合良く、毒蛇が彼女の太股にアタック。毒を吸い出すジョニーの姿はまるでクンニをしているようである(左写真)。期待を裏切らない。
 で、看病の甲斐あって彼女は全快し、いいムードのふたりはペッドイン。初めてのキスに戸惑いつつも感じてしまう女ターザンのショットには、かなりそそられるものがある。ありがとう。
 ところで、女ターザンの名前は「サマンサ」である。『奥さまは魔女』を連想させてしまうこの名前だけは減点であった。(せめて、バーバラとかシーラとかにして欲しかった)。


 性の喜びを知り、恋の奴隷と成り果てた彼女は、原人を連れて香港へと渡る。巨大なタンカーに原人を積んで輸送するのであるが、「ヒマラヤから香港に行くのにどうして船に乗るんだ?」などという素朴な疑問を考えてはいけない。『キングコング』の輸送方法がそうだったのだ。それに、輸送途中で台風に遭い、スペクタクルを盛り上げてくれる。だから、ここは素直に楽しみなさい。

 というわけで香港にやってきた原人は、スタジアムでサーカスまがいのショーをやらされるハメになる。これに憤慨したサマンサは興行師に抗議するが、逆に強姦されてしまう(左写真)。これを目撃した原人が怒った、怒った。鎖を断ち切り、強姦犯を追って香港市街に繰り出す。

 さあ、後は「怪獣映画」である。日本から円谷英二の一番弟子、有川貞昌を招いて撮った特撮シーンは、まさに東宝映画のそれ。迫力満点だ。
「これッ、これッ。これが見たかったんだよッ」
 と拍手喝采する怪獣マニアの熱い息吹が聞こえてくるかのようだ。精巧なミニチュア・セットに比べて、原人の造型はチンケだが、まあいいってことよ。
 で、強姦犯を捕縛して、地面に叩きつけて踏んづける大残酷を見せた後、お約束のビル登り。これに対する軍隊の作戦がビルごと爆破してしまおうという『ダイハード』もビックリのトンデモぶり。ドカーンと豪快に散る原人に哀れむ空きを与えずに「終劇」。

 断言する。これぞ「映画」である。


 

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