女囚さそり/第41雑居房

東映 1972年 89分
監督 伊藤俊也
原作 篠原とおる
脚本 松田寛夫
   神波史男
   伊藤俊也
出演 梶芽衣子
   白石加代子
   伊佐山ひろ子
   八並映子
   石井くに子
   荒砂ゆき
   賀川雪絵
   室田日出男
   小松方正
   戸浦六宏
   渡辺文夫


 以下は伊藤俊也監督の弁。

「僕が『さそり』を短命に終わらせたのは、作品に対して決めたことがあったからなんです。一つは、ストーリーは連続させる。シリーズの要諦というのはフリダシに戻すということで、例えば『寅さん』なら必ず柴又に戻って来てマドンナを見つける、みたいなね(笑)。それをやめて、話はずっと続いていく、と。それと、これは馬鹿なことを考えてたんですが、1作ごとに方法論を変える。そういう方法論を取る限り、どこかでどん詰まりになるだろうと思ってました」

 なるほど。だからこそ伊藤監督の『さそり』は毎回斬新で面白いのだ。
 今回、伊藤監督はさそりを5人の女囚たちと脱走させる。そして、彼女たちを通じて、女の性の絶望的な悲しさを描いてみせる。


 その5人の女囚たちを紹介しよう。
 まずは、女囚たちの頭目を演じる白石加代子。早稲田小劇場出身の「正当派のアングラ女優」である彼女を得て、外連味タップリの伊藤演出はここに極まれり。アングラ演劇を思わせる幻想的な演出は寺山修二の作品かと見まがうほどである。白石の役柄もアングラの極み。己れを捨てた男に復讐するために、稚児を鍋で煮て殺し、さらには腹の中の胎児を切腹して始末する女。そんな奴いるかッ、とも思うが、白石が演じるとリアルに感じられるから不思議だ。
 白石はこの他に市川昆監督の『悪魔の手毬唄』や『八墓村』に出演していて、これがまた凄い。狂女を演じたら右に出る者がいないが、先日、NHKのトーク番組に出ているのを見たら、普段は普通の人なので安心した。素顔は明るい人でした。

 連れ子いびりの再婚相手を絞め殺した女には荒砂ゆき。この人、世間ではほとんど認知されていないが、『夜のメカニズム』というフェロモン満開歌謡で廃盤マニアにはかなり知られたお方。俳優小劇場出身の、これまた「正当派」だが、どうしたわけかお色気歌謡の方に進み、こうして『さそり』に出ています。


 大映の女番長映画で名を馳せ、『プレイガール』にも出ていた八並映子は、不倫相手の妻を毒殺した色情狂。男に会えるうれしさからよかちん音頭を歌い狂うも束の間、追っ手に射殺されてしまう。

 5人の中で唯一さそりと心を通わす女、てて親殺しの石井くに子は、3人の温泉客に犯された上に殺される。彼女の殺害シーンがこれがまた凄い。彼女の死を川下のさそりたちに知らせるために、伊藤監督は滝の上から大量の血糊を流すのである。一瞬で真っ赤に染まる濁流。あまりの壮絶さに開いた口が塞がらない。

 石井の死に激怒した女囚たちは、温泉客を人質に観光バスを乗っ取る。残りの二人はレズビアンの放火魔伊佐山ひろ子と、売春婦の賀川雪絵。しかし、検問でさそりを裏切ったばっかりに、さそりの報復に遭い、皆殺しとなるのであった。


 今回は梶=さそりは淡々と傍役を演じている。もちろん、彼女はドラマの軸であるが、むしろ、共に脱走した5人の女囚たちの悲惨な人生にスポットは当てられている。つまり、さそりは本作では傍観者に徹しているのである。
 しかし、いざ権力が脅威を齎す時、さそりの反抗は容赦ない。

 まず、冒頭。査察に来た法務省のエライさん(戸浦六宏)に牙を向き、彼を失禁させて大恥をかかせる。
 彼女を強姦した看守(小松方正)への仕打ちはさらに凄い。絞殺した上に全裸にし、チンポコに杭を打ち込む残酷さ。これほど情けない死に様は、私は他に見たことがない。
 さそり暗殺を指令された看守(室田日出男)は、返り討ちに遭い、倒れたはずみで滑車のトゲが首に刺さり、グルリと一回転して絶命する。
 そして、郷田所長(渡辺文夫)も、本作で無事に鬼籍に入る。

 郷田所長を刺し殺したラスト。さそりを先頭に、早朝の新宿を裸足で走る女囚たちが数十名。さそりのおかげで、彼女たちの怨霊は解放されたのだ。かくして奇妙な爽快感と共に第2部は終了。最も過激な第3部へとストーリーは続く。


 

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