血を吸う眼
LAKE OF DRACULA

東宝 1971年 82分
監督 山本迪夫
出演 岸田森
   高橋長英
   高品格
   大滝秀治
   二見忠男


 和製ホラーというものはどうしてもドメスティックになりがちであるが、奇跡的に無国籍でクールなショッカーに仕上がった例も存在していて、それがこの『血を吸う眼』である。吸血鬼という極めて西洋的で乾いた素材を、日本という湿った土地に見事に着地させた作り手の手腕はただものではない。

 画家志望の秋子は少女時代に見た夢に悩まされていた。それは美しい夕焼けを背景に洋館に迷い込んだ彼女が、花嫁の生き血を吸う青年に出会うというものだった。その青年の眼があまりにも恐ろしくて、トラウマになっていたのだ。或る日、彼女が暮らす湖畔の別荘に棺が届けられる。そして、彼女の見た夢が、実は夢ではなかったことが次第に明らかとなる.....。

 本作の成功は、巧みな脚本や、英ハマーの名匠、テレンス・フィッシャーに手本を求めた山本迪夫監督の演出はもちろんだが、なんといっても、吸血鬼に扮した岸田森によるところが大きい。
 山本監督曰く、
「会社から次はドラキュラをやってくれって言われたんですよ。それで僕は岸田森じゃなきゃ嫌だって言ったんです。誰がドラキュラやるかって時点でもう岸田森しかいないと。直感でね。彼はそのままで吸血鬼ですよ、色が白くて植物的でね。朝から酒飲んでからだ壊してたから(笑)」
 山本監督の直感は当った。岸田が演じた吸血鬼は、エレガントで上品で、且つ凶悪で凶暴で、それでいて吸血鬼として生まれた悲しみを湛えており、見事という他ない。海外での評価も高い。


 そんな「日本で唯一のドラキュラ俳優」岸田森のプロフィールについて、簡単に触れておこう。
 岸田森。本名は同じ。名付け親は叔父である岸田國士。劇作家にして文学座の創立者である。國士の娘が岸田今日子であり、従って、二人はイトコの関係にある。
 法政大学文学部に進学するも2年で中退、サラブレッドの血筋ゆえか文学座付属演劇研究所1期生となる。同期には草野大悟、寺田農、橋爪功、北村総一朗、小川真由実、悠木千帆(現樹木希林)がいる。
 5年後、草野大悟、悠木千帆らと共に独立して六月劇場を創立。一方で子供番組からロマンポルノまで幅広く出演し、特に『怪奇大作戦』『傷だらけの天使』は今なお熱狂的ファンが多い。
 私生活では酒好き、女好きで有名。悠木千帆と同棲していたが、おそらく左の理由により破局。晩年は三田和代と同棲していた。
 蝶コレクターとしても有名。テレビドラマの脚本や水谷豊のCMの演出、勝アカデミー講師などでも活躍。現在生きていたら、伊丹十三のように映画監督になっていただろうとの見解多し。
 昭和57年12月28日、食道ガンにより死去。享年43歳。あまりにも早すぎる死であった。


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