地球最後の男
THE LAST MAN ON EARTH

伊=米 1964年 86分 白黒
製作総指揮 サミュエル・Z・アーコフ
監督 シドニー・サルコウ
   ウバルド・ラゴーナ
原作 リチャード・マシスン
脚本 ウィリアム・レイセスター
   フリオ・M・メノッティ
出演 ヴィンセント・プライス
   エマ・ダニエリ
   ジャコモ・ロッシ=スチュアート
   クリスティ・コートランド
   フランカ・ベットーヤ


 海外ではカルトとして絶大なる支持を得ていても我が国ではほとんど知られていない作品というのが結構あって、その代表格が『恐怖の足跡』と本作『地球最後の男』である。『恐怖の足跡』は我が国でも劇場公開はされていたが、本作に至っては劇場公開もテレビ放映もされていない。その意味で本作は「カルト中のカルト」と云えよう(註1)。

 地球に新種の細菌が蔓延し、人類の殆どは死に絶えてしまった。これに感染した者は「吸血鬼」となって蘇り、生者の血を求めて夜な夜な徘徊するのだ.....。
 主人公のロバートは孤独に苛まれていた。街には人っ子一人いない。無線すれども応答がない。彼は本当に「地球最後の男」になってしまったのか?。今日も「吸血鬼ハンター」として、昼間に眠る吸血鬼を探して、その心臓に杭を打ち込む「義務」の履行を続けるが、精神的にはかなりテンパっていた。
 そんな或る日、彼は昼間にさすらう一人の女を見つける。
「生き残りは俺だけではなかったんだ」。
 狂喜した彼は女を我が家に招き入れる。ところが、女は「吸血鬼」たちのスパイだった.....。
 今では「症状の軽い吸血鬼」たちが新たな社会を構築しつつあった。新薬で「症状」を押えつつ、「症状の重い吸血鬼」たちを抹殺していた。そして、今なお「吸血鬼ハンター」としての日々を送る「旧人類」のロバートは、彼らにとっては「伝説」的な存在だった。古き良き時代の生き残りとして、今や抹殺されるべき存在となっていたのだ.....。
 ここで初めて、原作の原題『I AM LEGEND』の意味が判ってくるって寸法。さすがマシスン。巧妙な構成である。

 このままでもすこぶる面白い作品であるが、本作がカルトになっているのにはもう一つ理由がある。
 本作はあの『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』の原形になっているのである(このことは脚本家のジョン・ルッソー自身が認めている)。のったりと蠢く「吸血鬼」たちの描写がまさに「リビング・デッド=ゾンビ」のそれで、一つ家をぐるりと取り巻く描写なんかアレそのものだ。
 本作が存在しなければ『ナイト・オブ〜』は存在しなかった、とまでは云わないが、イメージ的にかなり異なったものになっていたことは確か。その意味で本作は「ゾンビ映画の母の母=おばあちゃん」的なポジションに位置しているのであり、我が国で冷遇されているのが悲しい限りだ。
『ナイト・オブ〜』の「異母兄弟の息子の友達の従兄弟」ぐらい隔たりのある『ゾンビ99』とかをリリースする余裕があるなら、本作をまずリリースしろよッ、と声を大にして云いたい。

 なお、本作は71年にチャールトン・ヘストン主演で『地球最後の男/オメガマン』としてリメイクされているが、これはもう『ナイト・オブ〜』をシュワルツネッガーでリメイクするぐらいに勘違いも甚だしい作品であったことを付記しておく。

註1 本作は2005年2月に我が国でDVD化された。祝・解放。


関連人物

サミュエル・Z・アーコフ(SAMUEL Z. ARKOFF)


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