アンガーの記述通りにリタが積極的に攻めたのか、それともチャップリンが一方的に仕掛けたのか、その真相は判らない。いずれにしても、《黄金狂時代》に抜擢された時を前後して、二人の間に性交渉があったことだけは確かである。リタ・グレイの自伝《チャップリンと我が生涯》にはその模様の記述があるが、ほとんどポルノである。

「あの人は器用に私の水着を脱がせると、ひざまずいて私の裸を眺めました。今のこの瞬間まで男の人に見せたことのない部分を、私は本能的に手で覆いました。それからあの人を見つめました。その眼にはいやらしさの影はまったくありません。突然、恥ずかしさが消え、私は手をその場所から外しました」。

「私、濡れてしまったんです」と書く勢いである。記述は続く。

「やっぱりだめ。私は頭を横に振り、あの人に回していた手を戻し、両脚をきつく閉じました。できない。そんなことできない」。

 結局チャーリーは、この時はおあずけを喰らうことになる。次に訪れたチャンスは車の後部座席においてだった。

「あの人は何も云わずに、私のパンティの中に手を這わせました。私はダメッと囁いたつもりですが、口をキスでふさがれているのでうまく言葉になりません。あの人はズボンを下ろすと、私を膝の上に乗せました」。

 しかし、この姿勢では無理だったようだ。結局、チャーリーはリタを自宅に連れ込み、バスルームで念願を遂げる。

「突然、体を貫くような痛みが走りました。声を上げましたが、彼を抱きしめる手は緩めません。次の瞬間、私はあの人を深々と受け入れていました」。

 当時リタ・グレイ、15歳であります。



 チャップリンは避妊が嫌いだった。リタは妊娠し、《黄金狂時代》の撮影中に倒れる。アンガーはこの時の模様を、皮肉たっぷりにこのように記述する。

「うんざりしたスタッフが見守る中で、リタは何十回目かのタンゴを踊り出した。と、突然、彼女は腹部を押さえて悲鳴をあげた。傍らで見守っていたマクマレー夫人にしてみれば、この『おめでた』は予定の出来事であった。スペイン語で『神さま!』と叫び、失神する演技を披露する番がようやくまわってきたのだ。万事、計画通りに進んでいる。次は弁護士のエドウィン・マクマレーおじさんの出番だ。未成年者との婚前交渉は強姦になることをチャップリンに告知することが彼の役割だった」。

 強姦罪を避けるため、リタとの結婚を余儀なくされたチャップリンは、結婚式で友人にこのように語っている。

「刑務所にぶち込まれるよりはましだよ。長続きはしないがね」。

 刑務所にぶち込まれた方がましだったのかも知れない。
 ビバリーヒルズの豪邸に新婚夫婦よりも先に上がり込んだのは、リタの母ナナであった。ナナは新婚旅行にも付き添い、そのままチャップリン邸に住み着いてしまったのである。蜜月の日々もないままに一人また一人とマクマレー一族が居座るようになり、チャップリン邸は事実上マクマレー一族に乗っ取られる。《サーカス》でのハードな撮影を終え、疲労のピークに達した彼を待ち受けていたのは、飲んだくれたマクマレー一族の大サーカスだったというからまさに悪夢。新郎が癇癪を起こしたのも無理もない。マクマレー一族はリタむ含めて、その日のうちに追い出される。しかし、チャーリーは一族の呪縛から逃れることはできなかった。翌日、予め準備されていたかのように、リタからの離婚申請書と慰謝料請求書が送付されてきたのである。