《ラ・クンパルシータ》が終わると、楽団は続けて《スターダスト》を演奏し始めた。と、間もなく臨時ニュース。 「再び臨時ニュースを申し上げます。ただいまニュージャージー州トレントンからあった発表によりますと、今日午後8時50分に、隕石と思われる巨大な炎に包まれた物体がトレントンから20マイルのグローバーズ・ミル付近の農場に落下しました。CBSネットワークでは事件の重大さを考慮し、現場の状況を中継でお伝えすることにしました。中継車が現場に到着するまでの間、ラモン・ラケーロの音楽をお楽しみ下さい」。 さて、このあたりでオーソン・ウェルズという怪物について触れておくことにしよう。 |
「みなさん、今、私の前に巨大なクレーターがあります。その中心には奇妙な物体が埋もれています。凄まじい勢いで地面に激突したのでしょう。付近一帯は落下の途中でぶつかったと思われる木々の破片でいっぱいです」。 ラジオドラマはグローバーズ・ミルのウィルマス農場にマイクを移していた。 「問題の物体は、あまり隕石らしくありません。少なくとも私がこれまでに見た隕石には似ていません。それは巨大な円筒の形をしています。直径は30ヤードはあるかと思われます」。 背後には群集のざわめきと警官の制する声が聞こえる。そして、これらに混ざって「ブーン」という金属音が聞こえてくる。 偶然とは時として奇妙なイタズラをするものである。前述の通り、《マーキュリー劇場》の聴取率はいつも1桁。裏の《エドガー・バーゲン・ショー》が40%に近い人気を誇っていた。しかし、8時12分を過ぎた頃、《バーゲン・ショー》にあまり売れていない歌手が登場した。40%のうち15%がチャンネルを回し始めた。そして、彼らは「隕石のニュース」にぶつかり、これに聞き入ってしまった。もちろん、彼らにはこれがドラマである旨の情報は予め知らされていない。このことは確信犯ウェルズにとっても予想外のハプニングであった。 |
「あっ、みなさん、大変なことが起りました。たった今、物体の端がはずれようとしています。頂上部がまるでネジのように回転しています」。 ここでプツンという音と共に中継は途絶える。番組はしばし沈黙。やがてスタジオのアナウンサーが状況を説明する。 「みなさん、グルーバーズ・ミルから電話報告がありました。それによりますと、6人の州兵を含む40人が犠牲になりました。死体は判別がつかないほどに焼けただれ、変形しているとのことです。 |