ミシェル・ピコリ、ロミー・シュナイダー主演の映画『地獄の貴婦人』は本件に基づいている。硫酸による人体溶解も現実に行われていたのだ。但し、その廃棄途中にミートソースを食べたかどうかは不明だが。
マルセイユで新聞記者をしていたジョルジュ・サレが弁護士の資格を取得したのは40歳の時である。その仕事の内容はかなり如何わしいものだったようだ。ドイツ出身のカトリーヌ・シュミットとその妹のフィロメーヌに「フランス国籍と優雅な暮らしを手に入れるには、フランス人の老いぼれと結婚するのが一番」と助言したのは彼である。老いぼれはすぐにくたばり、併せて保険金が手に入るからだ。2人は助言に従って、フランス国籍と多額の保険金を手に入れた。
やがてカトリーヌはサレの愛人となり、妹とのトリオで保険金詐欺に手を染めた。まずカトリーヌが余命幾許もない老人と結婚し、ルイ・シャンボンという男(悪さをやらかして聖位を剥奪された元司祭らしい)を替え玉にして生命保険契約を結ぶという典型的な手口である。ところが、いざ保険金が手に入るとシャンボンがゴネ始め、取り分の増額を要求した。がめついサレが是とする筈はない。エクス郊外にあるエルミタージュ荘(奇しくもランドリューの「青髭の館」と同じ名称)に、シャンボンとその愛人にして共犯者のノエミ・バランドローを招くや射殺。遺体を浴槽に入れると硫酸を注いだ。1925年8月19日のことである。
この他にも、カトリーヌに多額の保険をかけた上で、肺結核を患う若い女性を毒殺してカトリーヌ名義で埋葬、保険金を詐取するという手口も行われている。
1931年に遂にお縄を頂戴したサレは、4件の殺人を含む様々な罪で有罪となり、1934年4月10日にギロチンにより処刑された。一方、シュミット姉妹には10年の禁固刑と釈放後10年の国外追放が云い渡された。
|