10番街の殺人
10 RILLINGTON PLACE

英 1971年 106分
監督 リチャード・フライシャー
原作 ルドヴィック・ケネディ
脚本 クライヴ・エクストン
出演 リチャード・アッテンボロー
   ジョン・ハート
   ジュディ・ギーソン


 ベンチャーズの代表曲と同じ邦題であるが、両者はまったく関係がない。本作はロンドンのリリントンプレイス10番地で起きたジョン・クリスティの事件の映画化である。
 事件の詳細については「殺人博物館」に譲るが、とにかくすこぶる奇妙な事件である。落語で云うところの「長家の御隠居」的な存在だった温和で世話好きな初老の男が「屍姦大好き」のド変態だったのである。そのギャップの物凄さが事件の異常性を際立たせている。これを演じるのがリチャード・アッテンボロー。『遠すぎた橋』やら『ガンジー』やら『チャーリー』やら、実在の出来事をメリハリなくそのまんまダラダラ撮るのが得意な監督であるが、これはハマリ役だ。監督なんかするよりも、ド変態の殺人鬼を演じている方がよいと思う。「中絶のお手伝いをして差し上げますよ」と目当ての女を連れ込んで、絞殺するさまは極めてリアルで、最優秀ド変態賞をあげたくなってしまうが、おそらく貰ってはくれないだろう。

 また、この事件は重大な冤罪を引き起こしている点も特筆に値する。クリスティと同じアパートに住むティモシー・エヴァンスという少々オツムの弱い男が、女房殺しで自首し、処刑されているのであるが、今日ではホンボシはクリスティだったとするのが通説である。悲劇の人、エヴァンスを演じるのは無名時代のジョン・ハート。この人もうまいなあ。御隠居に云いくるめられてまんまと罠にハマる「長家の与太郎」を見事に演じている。実際、顔もそっくりなんだ、これが。

 二人の名優のリアルな演技を支えているのが、リアルなロケ地である。なんと、この映画は現場であるリリントンプレイス10番地でロケしているのである。徹底したリアリズムで貫かれているのだ。実録犯罪もの好きには堪えられない一本である。
 監督はリチャード・フライシャー。実録犯罪ものは既に『絞殺魔』があるが、作品的にはこちらの方が優れている。それでも我が国では未公開(後にビデオ化)に終わったのは、アッテンボローがリアルに気持ち悪かったからであろう。


 

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