2000人の狂人
2000 MANIACS

米 1964年 88分
製作 デビッド・F・フリードマン
監督 ハーシェル・ゴードン・ルイス
出演 トーマス・ウッド
   コニー・メイソン


 まだ小学生だった頃、或る映画雑誌に載っていた1枚の写真に私はキモを潰した。ゲラゲラと笑いながら女をバラバラにする男たち。いったい何なんだ、この映画は!。キャプションには『血みどろ魔術師』とある。そんな映画、聞いたこともない。しかし、こうして写真がある以上、存在するのだ。見たい。いったいどんな映画なのか、この眼で確かめたい。以来、『血みどろ魔術師』は私の憧れの1本となった。

 それから7年後、私の願いは実現する。空前のレンタルビデオ・バブルの中で本作もリリースされたのだ。タイトルは『血みどろ魔術師』ではなく『2000人の狂人』。もの凄いタイトルだ。(『血みどろ魔術師』は同じ監督の別作品だった)。パッケージを手にした時、「アッ、これだ!、これに間違いない!」と身震いしたのを今でも鮮やかに憶えている。


 さて、内容であるが、これがもう想像に違わぬ、否、それ以上の、常軌を逸したものだった。
 地図にも載っていない南部の小さな村、プリーザント・バレー。北部から来た3組のカップルが道に迷って、この辺鄙な村を訪れる。折しも村は百年祭でにぎやかだ。彼らは村長の歓待を受けるが、何か不気味な空気が漂う。村人たちがどうも陽気に過ぎるのだ。不審に思った主人公は村を散策し、一つの石碑を発見する。
「プリーザント・バレー。1864年、北軍の虐殺に遭い、ここに全滅す」
 なんと!。この村は百年前に地上から抹消された村だったのだ!。
 気づいた時にはもう遅い。仲間たちは一人また一人とこの妙に陽気な亡霊たちの餌食となっていた。或る者は手足を斧で切断されて、陽気なカントリーをBGMにバーベキューにされた。或る者は馬に四肢を引かれてバラバラになった。或る者は釘の刺さった樽の中に閉じ込められて、丘の上から転がされた。或る者は腹の上に巨大な岩を落とされてミンチになった。主人公カップルはどうにか逃げ出すが、気のふれた亡霊たちは百年後にまた祭を催すことを約束して霧の中に消えていった。惨劇はまた繰り返されるのだ。

 とにかく、ここで繰り広げられるのは「陽気な大殺戮」だった。バンジョーが高らかに鳴り響く中、太陽の下で2000人のキチガイ(実際は30人程度)が乱舞する狂気のスペクタクル。これほどに常軌を逸した映画を私は知らない。

 なお、監督のハーシェル・ゴードン・ルイスは世界で初めて人間のはらわたを銀幕に映し出したことで「スプラッター映画の始祖」と称されている人物である。演出はヘボ以外のなにものでもないが、そのヘボさが却って画面にリアリティを与えているから奇妙だ。


関連人物

ハーシェル・ゴードン・ルイス(HERSCHELL GORDON LEWIS)


 

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