クロールスペース
CRAWLSPACE

米 1986年 85分
製作総指揮 チャールズ・バンド
監督 デヴィッド・シュモーラー
脚本 デヴィッド・シュモーラー
出演 クラウス・キンスキー
   タリア・バルサム


「殺人屋敷」というとなにやらB級ホラーの匂いがするが、現実に存在していたのだから驚きだ。
 まず、アメリカのH・H・ホームズ。彼は1894年のシカゴ万博の折りに「殺人ホテル」を経営していた。客室は気密になっており、金持ちの客が投宿すると毒ガスを送り込む。金品を奪うと、シュートで屍体を地下室に運び、硫酸槽で溶解した。犠牲者の正確な数は知れないが、一説によれば100人は下らないという。
 次に、フランスのマルセル・プティオ。パリがナチスに占領された折り、亡命の手助けをするレジスタンスだと称して裕福なユダヤ人を騙し、自宅にある三角形の奇妙な診察室に招き入れ、毒ガスを送り込んだ。屍体は地下室に運び、腐敗しないように石灰に埋めた。その犠牲者は少なくとも27人に及ぶ。
 この二人に共通するのは、共に医者だということ、そして、システマティックな「殺人屋敷」を建築したことである。


 以上の二人をモデルにしたと思われるのが本作の主人公、ガンターである。ナチス強制収容所の処刑用具設計者を父に持つ彼は、敗戦後にアルゼンチンに亡命。そこで医師の資格を得て、ドクター・キリコのようにせっせと安楽死の研究に励むうちに、父同様に「殺しの悦び」に取りつかれる。かくして合衆国に渡ったガンターは「殺人アパート」を建築。若い美人だけを投宿させて、父譲りの独創的な処刑用具で一人また一人と血祭りに上げていくのであった。

 ガンターを演じるのはクラウス・キンスキー。彼が演じることで初めて成立する映画といっても過言ではない。
 ガンターはモデルとなった二人の殺人犯とは異なり、トンデモないキチガイなのだ。金ではなく、殺しそのものが目的なのである。サディストでありながらマゾヒストの傾向もあり、一人殺すたびにロシアン・ルーレットをする。リボルバーに
弾を一つだけ入れて、銃口をこめかみに当てて引き金を引く。何事もないと、
「これでよし」
 供養のつもりなのだろうか?。
 とにかく、こんなインテリのキチガイ親父を演じられるのは、キンスキーより他に存在しない。

 前半は凄まじく面白い(キンスキーのファンなら大満足)。後半の盛り上がりもなかなかだ。しかし、ラストの呆気無さはなんたることか。これだけお膳立てしたのだから、もっとうまいオチがつけられた筈だ。誠に残念な作品である。

 なお、タイトルの「クロールスペース」とは、キチガイ親父がノゾキに利用していた「這う場所」のこと。ラストのここでの追いかけっこをもっと工夫していれば、本作は大傑作になったかも知れない。


関連作品

デビルズ・ゾーン(TOURIST TRAP)


BACK